言葉とサウンドをコラージュ的に組み合わせ、季節を描く京都の新星
京都を拠点に活動する3人組、幽体コミュニケーションズ。彼らの音楽に初めて触れたのは、2020年10月にYouTubeで公開された“幽体よ”のライブ映像。現在のステージではpaya(Vo / Gt)といしし(Vo)が両端に座って向かい合い、吉居大輝(Gt)が中央に座るという特徴的なスタイルだが、この時はまだ3人がほぼ横並びに位置している。素朴なガットギターの音色に乗せて、payaといししの声がとろけるような歌を交わす。payaのまったりと浮遊感のある声色もあって「キセルの要素も感じさせるアシッド・フォークのグループが京都から新たに出てきた」という印象を持った。
それからほぼ同時期、キセルも出演したライブイベント『カクバリズムの文化祭』に公募枠として抜擢される。ここで披露された3曲の映像をYouTubeで見ることができるが、とりわけ“ショートショート”に驚いた。ガットギターは脇に置き、payaはiPhoneからトラックを流す。J-POP由来の飛び切りキャッチーなサビに、吉居のソリッドなリフ主体のギタープレイ、payaの倦怠感が心地よいラップと、“幽体よ”で感じた印象とまるでかけ離れた、打ち込み主体のポップなエレクトログループとしての姿があったのだ。
以降、『りんご音楽祭』や『ボロフェスタ』への出演、映像制作会社であるP.I.C.S.や京都出身の落語家である立川吉笑への楽曲提供など、彼らの名前を目にする機会が増えていく中で、1stミニアルバムとなる本作がこの度発表された。メンバー3人以外にはマスタリングと一部のレコーディング・ミックスにSawa Angstromのメンバーでもある〈studio INO〉の吉岡哲志が参加している。CD限定のボーナストラック“�”を含めた全8曲のまとなりとなったことで、アシッド・フォークやエレクトロニカはもちろん、フォークトロニカ、アンビエント、ニューエイジ、渋谷系など多方面に散らばっていた要素をコラージュ的に並置することで、統一感を帯びさせている作品と言える。
冒頭の“季節を巡礼して生きている 季語に縁取られた体で立っている”は、この世の人とは思えないような加工したボイスと、ガットギター、環境音が鳴り響いて幕を開ける。そしていししとpayaによるリーディングが四方から聴こえてくる。詞の内容から何かの物語を読み取ることはできず、意味から離れた言葉の響きや、多層的な比喩による歪な情感が立ち昇ってくる。詞においてもコラージュ的だ。ただ全ての言葉が「季節」の表現に収束していくというアプローチは本作で唯一全曲に共通するところだと言えるだろう。
ドラムンベースを取り入れた性急なビートとプログレッシブな展開で“ショートショート”を上回るほどキャッチーな“ユ”なんかは、“創造”(2021年)以降の星野源とも近しさを感じることができる。またトンネルの近くの公衆電話から電話をかけて、いししが歌を吹き込み、その受話器から聴こえる音を採集したという“雨集”などユニークな仕掛けもたっぷりだ。
多彩なエフェクトを交えたサウンドでありながら、音楽の核はあくまで歌にあるという基本構造は、キセルはもちろん、現行の京都シーンではSawa Angstromやバカがミタカッタ世界らとあわせて位置付けることもできるだろう。しかし触れるたびにそれまでの印象からすり抜け、遊離していく心地は特異だ。全ての詞曲を手掛ける中心人物payaの役割が曲ごとによってぬるぬると移ろっていくことも含めて、まさしく幽体のような音楽である。
配信リンクはこちら
巡礼する季語
アーティスト:幽体コミュニケーションズ
仕様:CD / デジタル
価格:2,200円(税込)
発売:2023年2月1日(水)
配信リンク:https://big-up.style/8TjldfqyY8
収録曲
1.季節を巡礼して生きている 季語に縁取られた体で立っている
2.光の波間で息継ぎして
3.ユ
4.雨集
5.Ollie(巡礼する季語)
6.STAY
7.HOLIDAY
8.�《フィジカル版のみ》
幽体コミュニケーションズ
Webサイト:https://yutaicommunication.wixsite.com/-site
Twitter:https://twitter.com/yu_komisan
Instagram:https://www.instagram.com/yu_komisan/
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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