【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day2】Homecomings / Moccobond / パソコン音楽クラブ / ミツメ / 思い出野郎Aチーム / 岡崎体育
2009年からボロフェスタが居城としているKBSホールは地下鉄丸太町駅と今出川駅のちょうど中間に位置している。2012年から毎年本祭に参加している筆者、当時は大阪の阪急沿線に住む大学生だったので阪急烏丸駅で下車し、地下鉄四条烏丸から丸太町までの運賃をケチるためにKBSホールまでの二駅半、烏丸通りを延々歩いてったもんだ。卒業後は社会人となって上京し、しばらくとなるただいま齢27。今はこのために関西に帰ってきて足を運ぶのだが、変わらず烏丸駅で降りて烏丸通りを徒歩で上がってく。大垣書店、国際マンガミュージアム、京都新聞社、京都御苑、そして忘れてはならない個人経営のデイリーヤマザキ。運賃210円くらいもう払えるはずなのに、変わらぬ景色に対する年に一度のごあいさつとばかりに闊歩し今年もボロフェスタの立て看板に出迎えられる。
ボロフェスタは自分にとっての物語でもある。この会場でいつしか友達になって、1年でこの土日にだけ会う仲間もたくさんいる。しかし年々そんな顔が減っていることも実は気づいている。忙しくなったのだろうか、家族が出来たのだろうか、もう関西にはいないのだろうか。音楽で遊び続けることは案外難しい。昨日のトリを取ったMOROHAのステージの余韻がまだじわじわ効いている。
「勝てなきゃ皆 やめてくじゃないか 勝てなきゃ皆 消えてくじゃないか」“勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ”
だから、「音楽を止めるな!」
消えてった仲間たちの分まで音楽で遊んでいくことの宣言ともとれるこのテーマを胸にして今年も遊びに来た。そして一方で今の大学生が有志スタッフや観客の中にたくさんいることに、青春は確かに引き継がれこの場に息づいていることを感じた。いつまでも変わらないことの愛おしさは確かだが、ボロフェスタの景色は確かに移っていくし、人は成長するし、環境・境遇は変わっていく。だから面白いんだし、出来ればその変化をずっと追っていたいんだ。そんな青春の置き場所のような感慨をステージからも感じ受けていた2日目の物語を読み解いていこう。
Homecomings
12時開演、パーティーオーガナイザー土龍からこの日最初のアクトとして紹介されたのは京都精華大学での結成以降ボロフェスタと共に成長し、今や京都を代表するバンドとなったHomecomings。登場SEで流したニコの“these days(邦題:青春の日々)”もボロフェスタへの特別な思いのようにも取れる。“Songbirds”からステージを始め、新作『WHALE LIVING』からの曲を披露していく。途中“Hull Down”、“Smoke”では畳野彩加(Vo. / Gt.)はエレキからアコースティックギターに持ち替え、ついに取り入れられた日本語詞の響きとたおやかなメロディによる淡い熱をじんわりホール内に広げていくような雄大な演奏。最後に披露された昨年のEP収録曲“PLAY YARD SYMPHONY”まで貫かれた堂々たる佇まいは、初出演でステンドグラスが開いた時の嬉しそうな顔を見せた2013年や、平賀さち枝に加え隣のステージにneco眠るも引っ張り出してお祭り騒ぎを見せた2015年といった、地元の人間として会場にいる人と共に遊ぶかのようにスペシャルな光景を作ってきたこれまでの彼らとはまた違う。4人の音楽家として自分たちの楽曲をどこまでも丁寧に演奏・送り届けることに徹し、またそれが今出来る最良のパフォーマンスとなる、そんな新たなカントリー・ロードを開拓し行くHomecomingsの姿があった。
Photo:齋藤真吾
Moccobond
長らくボロフェスタと伴走してきたHomecomingsとは違う形で、今年一気に身をもってボロフェスタを体感しているのはホストバンドとして参加している大阪のスリーピースMoccobondだ。2016年にメンバーが脱退し、生演奏から打ち込み主体のアレンジに音楽性を大変革。1からどころか、マイナスから再スタートし新たな試みを打ち出している彼らの物語に街の底STAGEは恰好の舞台だ。“スーパーイマジネーション”、“SANBASHI”と冒頭から今の彼らの代表曲と言えるようなアッパー・チューンを配し、どうにか観客をつかんでやろうという気概と、同時間帯の地上のホールでは屈指のパーティーバンドKONCOSが盛り上げているところに何とか食らいつきたいとの意地が伺える。またボイス・エフェクトもかかったニューウェーヴ・サウンドに変貌を遂げたといえど、過度に塗り重ねる様な音像にはならず、あくまで3人のアンサンブルが肝であるバンドサウンドには特別な気合とバンドの物語を感じたステージであった。
Photo:Furuhashi Yuta
パソコン音楽クラブ
またこの日街の底STAGEの印象的な一場面として大阪を拠点とするDTMユニット、パソコン音楽クラブにも触れておきたい。直前のホールではtofubeatsがライヴを行っている中で、終了後ダッシュで移動する観客多数。始まるときにはすでに入場規制がかかっているという見事なバトンタッチだ。身体を揺らす隙間すらないぎゅうぎゅうのフロアに向けて放たれる“OLDNEWTOWN”。硬質なビートと肉体的なグルーヴによって、どんどん室温・湿度が上がっていく。あまりの暑さに脱落していく観客もいる中で後半に差し掛かるにつれ少しずつメロウに身体を動かすことが出来るようになる。しかし彼らの新鮮な懐かしさとでも言おうかレトロ・モジュールによるサウンドが促す盛り上がりは、1人1人が内省と享楽を対比し楽しむかのような不思議な熱狂の光景が広がっていた。
Photo:Yohei Yamamoto
ミツメ・思い出野郎Aチーム
関西勢だけではなく全国的な人気者もステージを彩り、ロックフェスとしてのボロフェスタを重厚なものにしていたのもこの2日目のトピックスだ。特に初出演となるミツメと思い出野郎Aチームはスタッフが手作業で描いた舞台の絵やピエロのモニュメントを見ながら他のフェスとは違う手作り感に圧倒されながら楽しんでいる様子。
ミツメはダークなサイケデリア「ESC」に表れる涼やかなポーカーフェイスと「エスパー」、「セダン」といったキャッチーなポップ・チューンによる熱量を織り交ぜていく。ちょうど1日の前半戦が終わる15時30分という、会場外のフードも堪能し、いくらかお酒も進み、疲れも出てくる夕方に向かう時間。ステージかぶりつきで身体を揺らす人はもちろん、ホール後方では徐々にパタ…パタ…と座り込みすっと首を垂らしていく。まさにミツメマジック!と言えるような心地よい催眠術のような30分だった。
一方思い出野郎AチームはKONCOSによる会場全体がパーティーの様相に持っていって意地でもステンドグラスを開帳させる!という勢いを引き継ぐ形で登場。“楽しく暮らそう”、“アホな友達”、“夜のすべて”、“ダンスに間に合う”、彼らの楽曲に通底するのは生活の中で感じる不安、困難、負い目、情けなさを感じながらも音楽に、パーティーに、そしてダンスに興じるどうしようもなさと愛おしさだ。正しく「音楽を止めるな!」というボロフェスタのテーマをど真ん中に射貫くような光景が広がっている。“週末はソウルバンド”で繰り返し歌われる「続けてもいいから嘘は歌わないで」という彼女からのあきらめ混じりの歌詞は、昨日のMOROHAで歌われた「弱さを責める曲は書かないで 歌の歌詞の通りちゃんと輝いて」“拝啓、MCアフロ様”とも通じて、犠牲や代償はありながらも音楽に情熱をかけることを止めないソウルの快楽に現実を忘れ、今だけはとただ陶酔するのであった。
Photo:齋藤真吾
岡崎体育
そしてこの日のトリは岡崎体育。ブレイク直後の2016年から2年ぶりのボロフェスタに凱旋したこの男。観客に足踏みさせたり、じゃんけんしたり、難しいコール&レスポンスに観客から総ツッコミをさせたりと相変わらずのネタ満載で、観客の視線を一手に引き受けて大勢を盛り上げていく。それぞれの曲の仕掛けが知れていることなんて織り込み済み、枕として曲前に自虐を交えながら丁寧にネタを振って曲に入ることで新鮮に聴かせ、何度見てもその仕掛けで笑わせてしまうのはもはや見事な名人芸だ。地元京都でのライヴとあって“私生活”、“Okazaki Child Management”といった初期の曲も披露していたが、中でも珠玉の一場面はパペットのてっくんと共にソロアーティストである自分の立場からバンドを徹底的にディスっていく“FRIENDS”。MCでは自身を〈京都代表〉と宣言しておいて、曲の後半にてっくんから京都市内ではなく宇治市出身であることを突っ込まれる地元ならではのトークに始まり、土龍への恩義を語っていくこの日だけに再構成されたパートが付け加えられていた。かつてはシンガロンパレードとnanoで行ったツーマンライヴに3人しか自分のお客さんを呼べなかった悔しさにも触れつつ、来年には兼ねてからの夢であったさいたまスーパーアリーナでのライヴ開催を宣言。アンコールでの“Explain”はあえて正攻法で披露したが、最後の歌詞「いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ」の響きは一昨年2016年で披露した時とはまるで変わって確かな現実味を帯びる。慣れ親しんだ地元に改めて“次のステージに行ってきます”とのあいさつに来たような佇まいにはしっかり京都を背負って立つ覚悟が見えた。
Photo:齋藤真吾
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com