
〈NEWFOLK〉作品ガイド
特集『文化の床』の企画「#JAPANESE NEWEST FOLK」では、着実に従来のイメージを跳ね返すような変革が起こっている日本のフォークの現在を追った。本記事では2018年以降に〈NEWFOLK〉〈Mastard Records〉からリリースされた、A&R・須藤朋寿が手がける全アーティストの作品からピックアップしてガイドする。
なお、〈NEWFOLK〉の主宰である須藤のインタビューはこちらから。歌心を大切にしてきた、本レーベルの世界をじっくり味わってほしい。
『Poor Vacation』Poor Vacation

仕様:CD / デジタル
発売日:2018年11月28日
レーベル:Mastard Records
楢原隼人のソロ・プロジェクトからスタートした5人組ポップ・グループ。2016年に彼らが主宰したコンピレーション・アルバム『Young Folks in Metropolis』にはevening cinemaやパソコン音楽クラブ、butajiらが参加し、都市のポップ・ミュージックが80年代リバイバルから確かなアップデートに向かうインディー・シーンの胎動を察知できる重要作品だが、これも〈NEWFOLK〉の前身である〈bouquet〉からリリースされている。1stフル・アルバムの本作ではAORやフュージョン、ブギー・ファンク、ブルー・アイド・ソウル、ヴェイパー・ウェイヴまでを抱擁し、アプローチも打ち込みから生バンドのサウンドまで多彩だ。“頭城市の蜃気楼”ではボーカルに大比良瑞希を迎え、ホーン・アレンジにも取り組んだメロウネスの極みのような仕上がり。全編に渡ってその時構想していたアイデアの大風呂敷をどこまで広げられるかのトライアルに溢れた作品だ。また楢原は同じく〈NEWFOLK〉からリリースしているSuper VHSのメンバーにも名を連ねている。(峯 大貴)
『旅に行こうよ』UlulU

仕様:CD
発売日:2019年4月10日
レーベル:NEWFOLK
関東を中心に活動をしている大滝カヨ(Vo / Gt)、古沢りえ(Ba)、横山奈於(Dr)によるスリーピースバンド。サウンドはベースがしっかりボトムを支え、ドラムは力強いビート。だがサウンドはThe Libertines(ザ・リバティーンズ)などのロックンロール・リヴァイバルを経由した、実に軽やかなロックンロールである。そしてそのサウンドに負けない大滝の感情を込めながら言葉の1つ1つが着実に伝わる歌声。この歌こそがロックンロール・リヴァイバル世代のバンドとは違った、UlulUとしての価値観を作り出している。録音、ミックス、マスタリングを中村宗一郎が担当した本作では、大滝の言葉を伝える姿勢が垣間見える。緩急を繰り返す作りが魅力な表題曲“旅に行こうよ”ではそれまでの作品では行わなかったラップ的な言葉の詰め方をし、“Happy end.”では感情の抑揚をつけて、ダイナミクスを意識した歌い方をしている。andymoriの“everything is my guitar”を聴いた時にも似た興奮を感じた。(マーガレット安井)
『旅するギター』ラッキーオールドサン

仕様:CD / デジタル
発売日:2019年4月17日
レーベル:NEWFOLK
本文はこちらから
『渚にきこえて(Passes on the Other Ocean)』1983

仕様:CD / デジタル
発売日:2019年5月15日
レーベル:Mastard Records
トクマルシューゴやOkada Takuroを支えるベーシスト、新間功人率いるバンドの3作目。スウィートなメロディと関信洋(Vo / Gt)の歌、メロウなグルーヴと緻密なアンサンブルという点では全編統一されているが、それでシティ・ポップとひっくるめてしまうにはあまりにもったいない!腕利きのミュージシャンたちが集まっているだけに、それぞれの「1983年」をイメージしたソングライティングによって、実は曲ごとに参照する地域もジャンルもまるで異なった、発見が連続するポップ・ミュージック集なのだ。ミナス、トロピカル、ブラック・コンテンポラリー、ブルー・アイド・ソウルからポスト・パンクなどが迫ってきては通り過ぎるが、いずれもどこかしらに「今は亡き」という感覚が共通している。そんなハリボテの心地よさによって、現代への憂いも漂っているのが恐ろしい。本作発表後、2019年をもって松村拓海(Fl)が脱退。(峯 大貴)
『居心地の悪い部屋』ARAM

仕様:デジタル
発売日:2019年7月31日
レーベル:Mastard Records
大学在籍時の2013年に結成したUkiyo Girlから2018年にARAMへと改名した4人組バンド。本作は2019年リリースの2曲入りシングルである。まさに浮世から離れた所在無げなサウンドだが、意固地にポップであらんとする、緊張感も伴ったミニマルなバンド・アンサンブルがなによりの魅力だ。翻訳家の岸本佐知子が「二度と元の世界には帰れないような気がする」という話を精選した短篇集からの引用ともとれる表題曲のタイトル。たしかにゾクゾク背中を撫でられるような不穏な空気が共通している。エモーショナルなギターが先導し、徐々にセッション性を帯びながらソウルフルになっていくグルーヴによって心が誘拐されてゆく心地がたまらない。ジャジーなコード感が艶やかな“ためらうほどに”も含め、ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLE、ミツメ、Taiko Super Kicks……とサイケデリックなサウンドに確かな歌心が吹き込まれたインディー・ロックの系譜に連なる意欲を感じる作品だ。(峯 大貴)
『生活の礎』家主

仕様:CD / デジタル
発売日:2019年12月18日
レーベル:NEWFOLK
本文はこちら
『あしたのメ』コスモス鉄道

仕様:CD / デジタル
発売日:2020年3月11日
レーベル:NEWFOLK
長野県・松本市を拠点とする4人組バンド。かつては金魚注意報として活動していた“おいら”こと金沢里花子(Vo / Gt)を中心に結成。本作は1stミニアルバムとなる。アドバイザーとして参加した田中ヤコブも手伝い、フォーキーなベースレスのバンド・アンサンブルは素朴で風通しよくまとめ上げられている。「ガチャポップバンド」と自らを称しているが、ガチャついているのはサウンドではなく、言葉にならない気持ちをどうにか歌に乗せていく、感情の喧噪を指し示しているのではないか。金沢の透き通っていながら密かに傷跡を抱えているような、歌声のほの暗さにはつい心をかき乱されてしまうのだ。一方で“ランランリン”で登場する「黄いろ色リボン」など時折キュートな違和感を残すワードセンスや、“コスモスみたい”の最後に唐突に入るチャイナシンバルなど、そのほつれた部分も含めて愛らしくポップに響いてくる作品だ。(峯 大貴)
『街の人/マークⅡ』ラッキーオールドサン

仕様:7inch / デジタル
発売日:2020年7月15日
レーベル:NEWFOLK
昭和を知らない若者たちが撮るフィルムカメラの写真みたい。奏でる音や放たれる言葉たちが、作り出す楽曲にレトロなフィルターをかける。曲を聴くとそんな思いにかられてまうのが篠原良彰とナナによる男女デュオ、ラッキーオールドサンだ。
今泉力哉監督の映画『街の上で』の主題歌として書き下ろされた“街の人”では、街を去るという主人公の様子を丁寧な響きの言葉で紡ぎ、ナナが朴訥と歌う。その奥底にある心の移ろいを描写するかのように奏でられるトランペットを演奏するのは高橋三太(Tp / 1983)。他にもレコーディングメンバーとして楠敦志(Ba / the circus)、西村中毒(Dr / 渚のベートーベンズ)が参加し、二人の作り出す世界に彩りを添える。
一方で哀愁漂うハーモニカが印象的な“マークⅡ”。この曲名を聞くと吉田拓郎のことを思い出す人もいるかもしれないが、自分の心情をそのまま吐露するのではなく、周りの風景に委ねてさりげなく語るところが今の感覚なのかもしれない。ある人にとっては懐かしく、ある人にとっては新しい。その2つを見事に内包し表現したこの2曲こそ、彼らの奏でるエヴァーグリーン・ポップスの真髄だといえるだろう。(乾 和代)
『思い出の国』工藤将也

仕様:デジタル
発売:2020年8月28日
レーベル:NEWFOLK
本文はこちら
『まつりのよる』Super VHS

仕様:デジタル
発売:2020年10月9日
レーベル:NEWFOLK
入岡佑樹主宰で結成されたニューウェーヴバンド。2015年にアルバム『CLASSICS』をリリースした当初はWashed Out(ウォッシュト・アウト)のようなチルウェイブなサウンドが特徴的であったが、2019年にmei eharaをフィーチャーした“魚の恋”では80年代のシティポップと接近し、キッチュで抜けの良い音楽を提示。2ndアルバム『Theoria』ではシンセサイザーを多用し、テクノポップ、ニューウェイブに愛情と造詣を感じさせるポップサウンドを作りあげた。しかし2020年に配信リリースされた本シングルでは打ち込みを主体としたサウンドではなく、フレットノイズを残したギター、エフェクトをかけない歌声など生を意識したモンド・ボッサを披露している。なぜ彼らは打ち込みから生へ「変化」したのか。入岡は和モノ・レコードの蒐集家であり、彼が選曲を担当したMix CD『SOUNDS FROM UNKNOWN GLASSLAND』は80年代日本のシンセポップ、ネオアコ、フォークの楽曲が集められている。つまり本作では、それまで取組めていなかったネオアコやフォークのサウンドを提示しただけあり、彼らは「変化」ではなく自分たちの守備範囲を「拡張」している最中なのである。(マーガレット安井)
『おさきにどうぞ』田中ヤコブ

仕様:CD / デジタル
発売:2020年10月14日
レーベル:NEWFOLK
本文はこちら
『下宿屋ゆうれい』台風クラブ

仕様:7inch
発売:2020年12月18日
レーベル:NEWFOLK
須藤朋寿とのインタビューを喫茶店で終え、二人で飲み屋に移動して話していた時に、彼が本当に大変だったと話していたのが、全て自分たちで行ったという『初期の台風クラブ』(2017年)のLP版の組み立て、封入作業のことだった。そりゃ途方もないし、自分自身でやっていることに驚いたが、「僕らみんなアホなんすよ(笑)」と話す須藤の顔が実に晴れやかだった。そんな中届いたこの7インチシングルの組み立てがまたも全て手作業という“私家盤”仕様に笑ってしまった。『火の玉ロック』(2019年)、『日暮し』(2020年)と、彼らは嬉々としてこの作業を続けている。なるべく自分の手で、神は細部に宿る、という精神で台風クラブと須藤は結託し、購入者との繋がりを求めているのだ。
少し余談めいてしまった。ライブでもすでに披露されてきた“下宿屋ゆうれい”で描かれるのはこれまでと相変わらずノックアウトされかかっている男の哀愁や虚勢。想いを残す人の影を追う姿には古典落語『たちぎれ線香』のような粋な人情も投影してしまった。前作“日暮し”に引き続き4分を超えた彼らとしては長尺な楽曲だが、「ひょっとして おれだけが 信じていただけかもよ」とCメロ~ギターソロでグッと我に返る展開など、やけにドラマチックに仕上げているのもニクい。B面の“ノックは無用”はConnie Francis“Lipstick On Your Collar(カラーに口紅)”の日本語再解釈ver。関西においては横山ノックの長きにわたる土曜昼のトーク番組としての認知があまりに大きいタイトルだが、上岡龍太郎の名調子を借りるとすれば、「要領の良さは三流、したたかさは二流、ゆえに音楽は一流。恵まれない天才、台風クラブ」。同一線上にいながら、じわじわと変化を遂げていることが見て取れる2曲だ。(峯 大貴)
『アレルギー』本日休演

仕様:7inch
発売:2021年1月20日
レーベル:NEWFOLK
CDデビューから前作『アイラブユー』(2018年)まで〈ミロクレコード〉でリリースをしてきた本日休演。岩出拓十郎(Vo / Gt)が現在ラッキーオールドサンのサポートギターを務めていることもあって、本作から〈NEWFOLK〉にジョイン。岩出中心の3人編成でレコーディングされた7インチシングルだ。“アレルギー”は一つのベースリフを基軸とするミニマル・ファンク。坦々としたアンサンブルに対して、やけにメロディがポップなのは、岩出が主導する別バンドのラブワンダーランドで取り組むラヴァーズ・ロックの追求も聴きとれる。ラップパートが入ったり、なんとも退廃さを醸す中津陽菜(ギリシャラブ)のコーラスなど、様々な仕掛けで引き込んでいく5分強。後半に立ち上る林祐輔(ゆうやけしはす / exすばらしか)によるキーボードのフレーズも印象的で、それぞれのパートはポップでキャッチーなのだが、同居するとなぜか不穏でイビツに響くのがユーモラスだ。カップリングの“何もない日”のヨレたソウル・グルーヴも含め、岩出のメロウな一面が解放された2曲。2021年2月にはこの2曲を含む4thアルバム『MOOD』をリリース予定。(峯 大貴)
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- 副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com