Can you dance to this song?
揺らぐ定義、移ろう概念。作曲家、サウンドデザイナーとして活動する主宰・増田義基を中心とする、かさねぎリストバンドは音楽合奏という表現方法の未来を描こうとさまよっている。ポリリズムを交えたビートを操縦するように、感情を抑えた女性のボイスが歌を乗せ、そこにメカニカルな楽器のフレーズが何層にも折り重なっていく。多彩なアイデアをポップに凝縮していく感覚や、全体に通底する張りつめた緊張感には、Mahavishnu OrchestraやDirty Projectors、コーネリアスがプロデュースしたsalyu×salyuなんかを引き合いに出して語ることも出来るだろう。しかし彼らは音楽・音楽外問わずさまざまな領域で活動するミュージシャン、パフォーマー、アクターが集まり、演奏ごとに編成や担当楽器を変えるスタイルをとっている。そこで構築される不定形のアンサンブルが織りなす歪な立体感こそが魅力であり、バンド・ミュージックを拡張する試みのように思える。
11人で演奏されている本曲“踊れる”は冒頭よりエレクトーン、シンセ、ギター、フルートなどのフレーズが絡み合って展開されていくが、歌のメロディや楽曲構成そのものはシンプルだ。細かく単語を並べていく石原朋香と田上碧によるヴォイスは歌唱とセリフの間を行くような心地で、維新派のヂャンヂャン☆オペラなんかも彷彿とした。しかし各パートの打点の強弱を絶妙にずらして配置されているため、どのリフに耳をそばだてるかによって印象がガラッと変わるのが本曲の特徴。じっくりとそれぞれのフレーズを追いかけると三半規管が刺激されるようなパースペクティブな音像が立ち上るのだ。後半にかけては根本駿介によるディストーション・ギターのカッティングが核となり、ジェットコースターのようにドライブがかかっていく。幾何学的ファンク・ロック・チューンと称したくなる仕上がりなのだ。
この曲の姿勢を象徴的に示しているのは何度も登場する「踊る」「踊れる」「踊れない」の3ワード。感嘆符と疑問符を着脱しながら繰り返されるこの言葉で、彼らは我々に問いかけ、試してくるのだ、“この曲であなたは踊れるか?”と。この問いは聴いている側の感性や注力して聴き取る音によって、いかようにも捉えることができるこの曲の構造を提示し、その回答を以て演奏が終了するという仕掛けのように思えた。つまり我々も演奏の受容器という役割で合奏のプロジェクトメンバーなのだ。さあ、新たな音楽合奏の概念を持ち出した“踊れる”に参加しよう。そうすれば、あなたもかさねぎリストバンドになれる。
クレジット
MV監督
海野林太郎(Rintaro UNNO)
MV出演
遠藤純一郎(Junichiro ENDO)
笠島久美子(Kumiko KASAJIMA)
小城開人(Kaito KOJO)
酒井直之(Naoyuki SAKAI)
サワダ(SAWADA)
龍村景一(Keichi TATSUMURA)
日比野桃子(Momoko HIBINO)
CG制作協力
岡田直己(Naoki OKADA)
演奏者
石原朋香(Tomoka ISIHARA) – Voice
遠藤純一郎(Junichiro ENDO) – Synthesizer
岡千穂(Chiho OKA)- Electronics
尾花佑季(Yuki OBANA)- Electric Piano
桒原幹治(Kanji KUWAHARA)- Drum Set
田上碧(Aoi TAGAMI) – Voice
根本駿介(Shunsuke NEMOTO)- Electric Guitar / Synthesizer
樋渡 直(Sunao HIWATRI)- Electric Guitar
増田義基(Yoshiki MASUDA)- Key / Compose / lyric
宮坂遼太郎(Ryotaro MIYASAKA)- Percussion / Other
山本英(Hana YAMAMOTO) – Flute
ミックス・エンジニア
長谷川綺(Aya HASEGAWA)
かさねぎリストバンド
かさねぎリストバンドは音楽・音楽外問わず様々なジャンルの演奏者を集めて演奏を行なう合奏集団。これまでにMV“夏のうた”、アルバム『ParaFull』のリリース、新潟県のコンクリート・ダム内で演奏した『絶滅種の側から』(2019 年 日本オーディオ協会 学生の部 最優秀賞受賞)、美術予備校「Art View」Web CM への楽曲提供など。
Twitter:https://twitter.com/kasanegiband
WRITER
- 峯 大貴
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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