REVIEW
空想
KiQ
MUSIC 2023.10.15 Written By 峯 大貴

劇伴音楽を経て、本格的にバンドとなったロマンたっぷりのロックサウンド

今、聴いてもKiQの1stアルバム『FuU』(2022年)は変なアルバムだった。首謀者やまのは(Vo / Gt)のぼそぼそと虚ろな歌声が全編を覆っているのに、サウンドとしては陰鬱でシンガーソングライター的なアシッド・フォークもあれば、バンドメンバーを獲得した喜びに満ちた快楽的なサイケやレゲエもある。両極端な上にそこに対する意味や意図は排されており、挙句の果てにユーモアだけがゾンビとなり果てて、踊り、歌い狂っているのだ。あたちぱ、あたちぱ、あたちぱ………と。

“Stories feat.白と枝”、“あたちぱ”(1stアルバム『FuU』収録曲)

なにも目指してもないし、どこに行っても構わないという完全無欠の浮遊(FuU)状態。だがそれも無理はない。やまのはの前バンドである余命百年の末期から、解散してソロの弾き語り時代、そして再び4人編成と、形を変えていった混沌の時代を、混沌としたまま1stアルバムに収めたまでのことだ。ここにやまのはという音楽家の露悪的なまでの正直さと人懐っこさがある。

 

だからこそ今回のメンバー4人全員がジャケットに映されたEP『空想』には驚いた。1曲目“僕の家”の冒頭、Badfingerの“No Matter What(嵐の恋)”やOasis “Some Might Say”を彷彿するブリティッシュなギターフレーズから、明確に今までとは異なる意図を感じる。バンド内の高いテンションと、どんなアイデアもポップなものに昇華してやろうという開放的なクリエイティビティが反映された、一心不乱に真っすぐギターロックへと向かった作品。いや、今日珍しいグラムロック作品と呼んでも遜色ないサウンドに発展している。

“僕の家” “Boys” “グリーンマン” ライブ映像

この狙いを定めた制作に至るには、『FuU』リリース後しばらく、猪股和磨監督の映画作品『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』の音楽制作に着手したことも大きいだろう。青くていなたいロードムービーである映画のストーリーに寄り添って、4人で作曲をしたという経験がKiQを「やまのはを中心とする4人」からバンドにした。もっとも礒部智(Ba / Tocago、Puné Loi、ayU tokiO)、照沼光星(Dr、Per / jan and naomi、GOD、下津光史 & THE STRANGE FOLKS、カネコアヤノなど)、三ッ野大貴(Gt / Magical Lizzy Band)と多方面で活躍しているメンバー揃いだ。遅かれ早かれではあるが、ようやく全員の実力がフラットに発揮できる状態になったというべきだろう。実際、今回の『空想』から作曲のクレジットが、やまのは単独からKiQになっている。

“Boys”(映画『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』オープニング曲)

本作の歌詞においては「忘れない忘れた事 変わらない変わってる人 古くても新しい事ばかりさ」(“グリーンマン”)など、背反した事象に共通部分を見出そうとする箇所が随所に表れるのも特筆すべき点だ。特に唯一やまのはの弾き語り的色合いを残している最終曲“掃除”でさりげなく歌われる「一生残る一瞬を求めて 描く地平線 目の前」に溢れ出るロマンティシズムっぷりよ。未来に期待もしていないが、うだつのあがらぬ過去よりマシと言わんばかり。大半はジャムセッションを主体に構築していったかと思しき、リフ主体の楽曲が並んでいることも含めて、今のバンドの充足感がキャプチャされているところが最大の魅力だ。

 

現在、徐々に忍び寄っている「バンドってやっぱりいいかもしれない」という潮流とも呼応。国内においては以前レビューで取り上げた、ベースの磯部も所属する、沖ちづるが新たに組んだTocagoとも合わせて注視していきたいところだ。やまのはは単に浮遊を続ける音楽家ではない。時代を見ながらバンドプロジェクトを推進していくしたたかな側面も表れ出している。


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空想

 

アーティスト:KiQ
仕様:CD / デジタル
発売:2020年9月20日
価格:¥3,000(税込)※特別仕様ZINE+CD
配信リンク:https://friendship.lnk.to/Fantasia

 

収録曲

1.僕の家
2.グリーンマン
3.サラケヨ
4.地底人
5.花
6.掃除

KiQ

 

やまのは(Vo / Gt)
礒部智(Ba)
照沼光星(Dr)
三ッ野大貴(Gt)

 

KiQ(ききゅう)は2021年に結成されたロックバンド。
サイケデリックロックやアシッドフォークに影響されたやまのは(Vo / Gt)の楽曲に、メンバーそれぞれが違うロックの感性を持ち寄り組み合わせた音楽性が特徴。
読み物としての「詩」を意識した日本語の歌詞も評価されている。
2022年4月に1stシングル『あたちぱ』を本秀康が主催する《雷音レコード》より発売。
同年5月には1stフルアルバム『FuU』を自主レーベル《mimikaki DISK》より発売。
同年6月に渋谷WWWでのワンマンライブを開催し盛況に終える。

2023年には主題歌、全劇伴を担当した映画『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』が全国公開され、映画祭『MOOSIC LAB 2023』にてベストミュージシャン賞を受賞。
同年7月に劇中のオープニングテーマに起用された“Boys”が7インチシングルで雷音レコードより発売。
同年9月に6曲入EP『空想』をCD&デジタルでリリース。

 

X(旧Twitter):https://twitter.com/KiQ_music
Instagram:https://www.instagram.com/kiq_music/

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