出会い別れ、痛み哀しみ喜びを意地でもポップスに昇華する、美しくも生々しい4作目
『わかりあえないことから』というタイトルや、漆黒をバックにメンバー3人が物憂げな表情でこちらを見つめるアーティスト写真を見ると、今までの路地に感じたことのない不穏、徒労、諦念に胸が締め付けられる。
楚々で透き通ったKozue(Vo / Fl)の歌を核に、穏やかな多摩田園都市周辺の生活を描き出す普遍的でカラッとしたポップスに取り組んだ直近2作、2ndアルバム『これからもここから』(2018年)、3rdアルバム『KOURO』(2022年)から一変。この4枚目のアルバムは言うなれば、日中でも陽が差し込まない湿った裏路地だ。
Kozueとソングライターである久保田敦(Gt)と鈴木雄三(Gt / Key)の3人は2014年の結成以降不変。その中で前作以降の大きな変化としては、『KOURO』のタイミングで加入した中島雄士(Dr)が、並行して活動していたグソクムズに専念するため昨年8月に卒業した。
そもそも本作は当初、『KOURO』の次のステップとして、グソクムズやソロでも才筆奮う中島が「第三のソングライター」となり、久保田・鈴木・中島がそれぞれの楽曲を収めたアルバムを作るべく着手した。しかし志半ばで離脱することとなり、中島が残した曲も含めて形にすることが本作の大きな命題となっている。抜けたドラムの穴には大見勇人(砂の壁)が全曲で参加。またピアノに同じく砂の壁の青木聖陽、パーカッションに宮坂遼太郎、そして1曲のみサックスの小柳良平と、これまで取り入れてこなかった楽器もフレキシブルかつ豪華に迎えている。
冒頭ギターの音を確かめながら鈴木が「んー、どうしようかなぁ」と悩んでいる様子から始まるところからして、群青色の曇り空な心象だ。全11曲の配分としては鈴木3曲、久保田5曲、中島3曲。バンドの舵取り役でもある鈴木の書く楽曲はR&Bやソウル由来のグルーヴにこだわりながら、体感温度が少し下がるような日常のチルアウトを描き出す。しかし“行方なくとも”のラストではタガがはずれたように全ての楽器が暴れまわり、オリエンタルな雰囲気を醸す違和感を残している。
一方後半に並ぶ久保田の楽曲は躁鬱どちらのアクセルもベタ踏み状態。スティールパンの音色や、ラストサビでの転調などキャッチーな要素てんこ盛りな“明日は手の鳴る方へ”も、続く重苦しいレゲエ“のけもののけもの”も共通して歌われるのは「誰かとの疎遠に対する後悔と、その呪縛との対峙」である。その極地が中盤に配されたインタールード“屈折点”。降りしきる雨音と怪しげなアコギのアルペジオをバックに三声コーラスで亡霊のように歌われる「My laundry won’t dry any more……」。路地史上で初のポップさ皆無のホラーチューンに、久保田の心の底にあるドロっとした部分が垣間見た心地だ。
その中で最も路地ど真ん中を突いているのが中島の曲というのも面白い。特に“プレミアム”は“ラフ”や“日々を鳴らせば”に通じる、Kozueの歌が一番華やぐ軽やかなミディアムポップスだ。全体を覆う内省的なトーンの中で清涼感をもたらすオアシス的存在である。
これまでよりワントーン彩度を落としつつも格段に幅の広がった楽曲が並ぶ中で、それぞれの心模様とはある種距離を置きながら、涼しげな顔で屹立しているKozueの歌の頼もしさが際立つ。Kozueをどのように輝かせるかがこれまでの路地の音楽の基本姿勢であれば、本作ではKozueが最終的に路地の音楽へと引き戻す支柱になっているのも大きな違いである。
また1stアルバム『窓におきてがみ』(2016年)の頃の未発表曲“湿度”も正式に録音され、中島の楽曲も含め、ここまでの心残りを全て出し切ったようなエクスタシーを感じるのも特筆すべき点。そんな本作のレコーディングを終えたのち、2ndアルバム以降長らくバンドを静かに支えていた高橋鐘(Ba)がバンドを離れた。つくづく路地は常に活動の岐路に立ち続けていて、出会いや別れ、痛み哀しみ喜びを意地でポップスに昇華してきたバンドだと思う。本作はそこがこれまでで最も美しくも生々しい形で表出したアルバムだと言えるだろう。
9月28日に行われるリリース記念ライブの情報が発表されており、タイトルは『THE LAST WALTZ』。これからの路地について想像を巡らせながら、今は繰り返しこのアルバムの再生ボタンを押している。
配信・購入リンク:https://p-vine.lnk.to/lDuHjl
わかりあえないことから
アーティスト:路地
仕様:CD / デジタル
発売:2024年8月7日
価格:¥2,750(税込)
収録曲
1.ちょっとだけ群青 2.スロウ 3.夜灯 4.行方なくとも 5.湿度 6.屈折点 7.虹の色 8.明日は手の鳴る方へ 9.のけもののけもの 10.プレミアム 11.呼吸
配信・購入リンク:https://p-vine.lnk.to/lDuHjl
路地『わかりあえないことから』リリース企画ライブ“THE LAST WALTZ”
日時 | 2024年9月28日(土) |
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会場 | 下北沢 440(four forty) |
料金 | 前売り 3,000円 / 当日3,500円(+1ドリンク) |
出演 | 路地 / ぎがもえか / 砂の壁 |
予約 |
路地
Kozue(Vo / Fl)
久保田敦(Gt)
鈴木雄三(Gt)
多摩田園都市を拠点に活動する音楽グループ。 メインストリートから一つ角を曲がったその先で、 自由気ままなポップスを紡ぐ。
Instagram:@roji_band
X(旧Twitter):@rojiband
Lit.Link:https://lit.link/rojiband
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WRITER
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com