REPORT

リクオ『Gradation World』スペシャル・ライヴat 代々木・Zher the ZOO レポート

MUSIC 2019.08.05 Written By 峯 大貴

来年デビュー30周年となるローリング・ピアノマン、リクオ。長いキャリアの中でたどり着いた現在54歳の境地が一番いいと断言しよう。先日アンテナで公開したインタビューでもまた初期衝動に戻りつつあるという現在の心境についてたっぷり語ってくれたが、今のライヴ・ステージには、死ぬまで歌い続けようとする使命感と、どうしても音楽をやりたくなってしまう衝動が、ガツっと手を組んでスパークするような開放感に満ち溢れている。

 

そう感じさせたのは先日7月21日(日)に代々木Zher the ZOOで開催された、リクオ3年ぶりのアルバム『Gradation World』リリース記念のスペシャル・ライヴ。ジェリー・ウォレスの“マンダム〜男の世界(Lovers Of The World)”に乗せてリクオwith HOBO HOUSE BANDがフルメンバーで登場する。リクオが寺岡信芳(Ba /アナーキー)、真城めぐみ(Cho /ヒックスヴィル)、高木克(Gt /ソウル・フラワー・ユニオン)、小宮山純平(Dr)、宮下広輔(ペダルスティール)という名うてのメンバーを一通り紹介し、『Gradation World』収録の“千の夢”からライヴは幕を開けた。

序盤数曲で“君と僕とセカイの間”、“You”、そして少し斜に構えたリクオなりのキャロル・キング“君の友だち(You’ve Got a Friend)”といえる“友達でなくとも”といった本作の先を行く新曲を立て続けに披露するブロックに突入。いずれもキャッチーでスッと胸に届く、大切な人に向けたラヴソングだ。『Gradation World』がロックンロールへの愛や、同世代に向けた賛歌など、等身大のリクオをむき出しにする作品であったが、ここには対照的にストーリーテラーとしてのロマンチックなリクオの姿が見える。レコ発でありながらも衝動を押さえきれず自らの曲作りの視点もどんどん前のめりにローリングストーンしていっている様が伺えた。

 

中盤からは『Gradation World』のサウンド・プロデューサーを務めた森俊之(Key)を呼び込む。「彼を迎えたことで出来上がった作品」とリクオが森のハードルを上げつつ、レコーディングにおけるフル編成によって収録曲を“海さくら”から次々と披露していく。森のキーボードが入ることで一層分厚くなるアンサンブル。やはりHOBO HOUSE BANDのサウンドの根幹はリクオの跳ねまわるピアノなだけに、森は周りに目配せしつつしっかりバンドを下支えするような演奏を魅せる。またリクオの醸すグルーヴに対して寺岡のベースと小宮山のドラムがリズムに厚みを持たせていく一方で、象徴的なリフや、率先して暴れていくバンドのテンションを担うのは宮下によるペダルスティールであるところがこのバンドの面白さだろう。まるで『孤独なランナー(Running on Empty)』におけるジャクソン・ブラウンとデヴィッド・リンドレーのような関係性がリクオと宮下にも感じられるのだ。

森俊之(Key)
宮下広輔(ペダルスティール)、真城めぐみ(Cho)

またこの日リクオはMCで曲を紹介していく中で何度も「音楽を続けていてよかった」と述べていた。東日本大震災の発生により何を歌うべきかについて答えが見えなかった中で、「すでにリクオさんの歌の中にあるじゃないですか」とある人に言われて再び歌い出せるようになったという話から演奏された“ソウル”。大学を卒業して就職する友人を尻目に一人音楽という道を選んだことと、今になって思えばどんな道を選んでも安定なんてないことを悟ったという話からの“満員電車”。様々な紆余曲折があり、悩みながら、時にくじけながらも、音楽を辞めたいと思ったことだけはなかったという確固たる自負がリクオの音楽をパワフルにしている。その集積と言えるのが終盤に披露された“オマージュ-ブルーハーツが聴こえる”なのだろう。「あれからもう30年!!」と観客も三つ指を突き上げながら一緒に歌う光景は、過去の懐古ではなくここから一花咲かせるようというリクオと観客との決起集会のような猛々しさがあった。

 

アンコール最後の“永遠のロックンロール”ではなんと客席にいた、うじきつよしもステージに飛び入り、観客と共に大合唱のまま終演。しかしメンバーが退場しても観客の手拍子と合唱が止まず、再度登場しもう一度“永遠のロックンロール”を披露。いつまでも終わりたくないとうずうずしている観客をピースフルな気持ちのまま日常に引導を渡すかのような終演であった。

まさに四十歳にして惑わず、五十歳にして天命を知る。リクオの真っすぐなパワーが詰め込まれた『Gradation World』で提示したモードの総決算と言えるようなステージであった。と思いきや11月にはBillboard Live OSAKAと下北沢GARDENでレコーディングに参加した古市コータローや山口洋(HEATWAVE)らをゲストに迎えたリリース記念ライヴの開催が決定。まだまだリクオは、だんだんよくなる

日程

2019年7月21日(日)

出演

リクオwith HOBO HOUSE BAND

(ベース:寺岡信芳/コーラス:真城めぐみ/ギター:高木克

 /ドラム:小宮山純平/ペダルスティール:宮下広輔)
ゲスト:森俊之(キーボード)

飛び入りゲスト:うじきつよし

会場

東京 代々木・Zher the ZOO

セットリスト

1 “千の夢”
2 “永遠のダウンタウンボーイ”
3 “君と僕とセカイの間”
4 “You”
5 “友達でなくても”
6 “雨上がり”
7 “海さくら”
8 “だんだんよくなる”
9 “夜更けのミュージック”
10 “希望のテンダネス”
11 “グラデーションワールド”
12 “黄昏と夜明け”
13 “ソウル”
14 “満員電車”
15 “オマージュ – ブルーハーツが聴こえる”
16 “恋の行方”
17 “アイノウタ”

 

アンコール
1 “僕らのパレード”
2 “酔いどれ賛歌”(新曲)
3 “ミラクルマン”
4 “永遠のロックンロール”

写真

コヤママサシ

WRITER

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