デビュー作にして、巧みに「匂わせる」ストーリー描写
yonige、HumpBack、FiSHBORN、TETORA……と2010年代中盤以降、ギター・ベース・ドラム編成による女性3人組ギターロック・バンドが大阪で断続的に現れている。この世代の背景にある大阪、引いては関西の土壌についてはまた稿を改めたいが、現在20歳の同じく3人組(サポートドラムを含めライブは4人)であるヤユヨの存在は多くの人と同様、2019年12月に公開された“さよなら前夜”のMVが話題を呼んでいることで知った。ここにも2015年にyonigeが“アボカド”のMVから火が付いたことを重ねていたのだが、ヤユヨが結成したのは2019年1月。今までの多くのバンドにも増すドライブ感でいきなり存在を示したことにまず驚いた。
発表した音源作品はデモCDのみ。等身大の恋愛模様を字余り気味に詰め込んだ歌詞に、やけにウェットなメロディ。そしてリコ(Vo / Gt)のさばけた節回しとブルージーなボーカルで共感を得て、あれよあれよとここまで来た。本作は遂に初流通作品となるミニアルバムだ。サウンドそのものはギターロックが主軸のストレートなもので、構成やアレンジ、ギターソロの入れ方などにまだ拙さが残る。しかし聴いていく内にそんな発展途上の部分も全て魅力的に響いてくるのだ。その要因は歌詞であり、すでに独自のスタイルを確立している。
まず本作のテーマはCDのみに収録されている“ユー!”のアコースティックverに至るまで、「恋の余韻」でほぼ全て一貫している。恋人へのノスタルジーの捧げ方と、別れの発露から経過した時間のバリエーションで魅せるコンセプト・アルバムといえるだろう。
曲作りの主軸を担うリコの詞はストーリーがやけにクリアなのが特徴だ。そして彼女が初めて作ったオリジナル曲だという“さよなら前夜”で、すでにその真骨頂が発揮されている。例えばサビの“昨日、15時、1時間の微睡みを終えた君を見た時 もうこの部屋に来ることはないかもしれないと思ってしまった”。この8小節でWhen(昨日、15時)/ Where(この部屋)/ Who(私)/ What(思ってしまった)/ Why(1時間の微睡みを終えた君を見た)/ How(もうこの部屋に来ることはないかもしれない)と5W1Hが全て詳細に設定されている。過不足なく情報を整理した、誰でも脳裏に像を結べる表現だ。またこのフレーズに含まれる「1時間の微睡み」を始め、「左側が無音のイヤフォン」、「君が画面だけの人になっても平気かも」など、あえて真正面からピントをずらしたワードが豊かな余韻を仄めかす。この「匂わせる」言葉選びが、5W1Hのリッチな状況設定と相まってたまらなく胸が掴まれるのだ。その後も“今夜、22時”、“日付が変わって明日が今日になったら”とWhenの経過をつぶさに追っていくのだが、この「ト書き的」な言い回しもストーリーをつかむために大きく寄与している。
この時制へのこだわりは“七月”でも表出しており、サビの最後の詞を“ダーリン、私の”→“ダーリン、君がいなくても眠ろう”→“ダーリン、そう呼べない人を”と推移していく。この二人の関係性で時間が経過したことをさりげなく匂わせる技法にも唸らされた。その具体性を伴った描写は自己体験に基づくものかもしれないが、いずれの楽曲もエモーショナルに感情が表出することはない。冷静に状況をオブザーブし、感情との対話と推論を通して折り合いをつけ、自己理解を深めていくセルフ・カウンセリング的な綴り方が巧みなのだ。日本のロックバンドで詞から掻き立てる情景描写の精度において、直近ではムツムロアキラによるハンブレッダーズの楽曲とも比類する衝撃を受けた。
一方でぺっぺ(Gt)の詞曲によるブリットポップ調のダウナーなリフを主体とした“メアリーちゃん”では、“うまくは言えないけど 私なしで生きるあなたは嫌いよ”と整理も付けぬまま感情をぶつけていく表現で対照的。リコも巻き舌気味に荒っぽく情念を込めた歌唱で他の曲とは異なるアプローチを提示しており、このソングライター二人のカラーの違いも大きな武器となる可能性を感じさせる。
それだけに、詞:リコ、曲:ぺっぺの体制で今回タイアップのため書き下ろしたという“いい日になりそう”は全体を司る「恋の余韻」から唯一逸脱しており、少しばかり浮いた存在にはなっている。今後違うテーマの取り組みや、引いてはパーソナルな物語による自己表現から脱却した時のポテンシャルが問われていくことになるだろう。しかしそのクリアで丁寧な作詞には決して勢いや愛嬌だけではない実力を秘めていることは、本作で十分に伝わってきた。ヤユヨの物語は早々に前夜とさよならした本作から幕を開ける。
ヤユヨ
アーティスト:ヤユヨ
仕様:CD<タワーレコード限定>
発売:2020年8月5日
価格:¥1,300(税込)
購入リンク:ヤユヨ/ヤユヨ<タワーレコード限定>
収録曲
1.kimi no egao
2.いい日になりそう
3.メアリーちゃん
4.今度会ったら
5.さよなら前夜
6.七月
7.ユー! (acoustic ver.)
8.さよなら前夜 (acoustic ver.)
Webサイト:https://yayuyo-dayo.amebaownd.com/
Twitter:https://twitter.com/auo_1999
Instagram:https://www.instagram.com/auo_1999/
アメーバブログ:https://ameblo.jp/yayuyodaze/
WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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