シャイとユーモア、関西に息づくブルースが香り立つうた
ブルースやソウル、肩の力が抜けたサーフ・ロックを要所で感じるところはBen Harper(ベン・ハーパー)。ホセ・アントニオのガット・ギターを自由なタイム感でポロポロと(時にゴリゴリと)弾くさまはJorge Ben(ジョルジ・ベン)をも思わせる。いや、もっちゃりとした口調で優しくもちょっぴりスケベさがある歌、と言うなればギターを抱えた笑福亭鶴瓶というのが最も座りがよいかもしれない……。
大阪を拠点に活動しているシンガー・ソングライター、その名もガリザベン。コミカルかつ奇天烈な演奏で毎度熱量の高いライブを行っている4人組ロックバンド、バイセーシのベースとして活動する一方で、長らく弾き語りも続けてきた。本作は『ほんの気持ち』(2014年)以来となる、2ndソロアルバムである。
独特の言語感覚で綴られた全9曲。全編ガット・ギターと歌の一発録音であることも手伝って、彼の深夜の独り言を盗み聴きしているような感覚に陥ってくる。
「きんちょうるで緊張して この夏はすぎてく」“かとられ”
「あの娘はあいどる 手首の五線譜ぶるーす」“あいどる”
「安ワインとにいなしもん ボクは月の向こう 君は湯豆腐ゆがいてる ドキドキした目で」“East of The Sun,West of The moon”
あえてひらがなが用いられた言葉のゆるまった空気が心地よく、徐々に酔いが回っていく。M4“ゴリラのスパーク”なんてゴリラの恋愛模様を妄想した歌だ。「うっほほ うほほ」と情感たっぷりに声を絞り出すのだが、ただバカバカしいだけではなく「抱きしめたいけど 力の加減がわからない」という一節には、パワーがあるがゆえに生じるゴリラなりのペーソスを滲ませている。また誰かを思う気持ちだって、M7“君にペロンチョ”とギャグ的に昇華して煙に巻いてしまう。本当はロマンチックなくせして、シャイとユーモアがついつい凌駕してしまうところがガリザベンの歌の大きな魅力なのだ。
この諧謔性は関西に息づくブルースの香りとも言い換えることができるだろう。木村充揮(憂歌団)やAZUMI、ジャンルは違えどナオユキの漫談にも通ずるものがある。また切なさと高揚感を行き来する歌のグラデーションの鮮やかさは、奇妙礼太郎に比類しているとも言っていい。
8年ぶりのアルバムとあって活動は至極マイペース。しかしどの曲も彼にしか描けない世界が広がっている。クセが強いのにスッと飲めちゃう本格麦焼酎みたいな作品だ。
ほっぺのかんじ
アーティスト:ガリザベン
仕様:CD
リリース:2022年6月9日
価格:¥2,000(税込)
レーベル:JACO’S HAT RECORDS
収録曲
1. サマーリッチ
2. ぴんく
3. こくるり
4. ゴリラのスパーク
5. あいどる
6. かとられ
7. 君にペロンチョ
8. 蝋石のうた
9. East of The Sun,West of The moon
ガリザベン
大阪を拠点に活動するシンガーソングライター 兼バンドマン。
1980年 大阪に爆誕。おばあちゃんの影響によりちーさいころから鼻歌を作り始める。
1990年 家にあるラジカセで多重録音を開始。音楽活動に本格的に取り組んでいく。
2012年 当日活動していたバンドが活動休止になりソロ「ガリザベン」爆誕。同じ年 、バンド「バイセーシ」結成、ベース担当。ガリザベン、バイセーシ共に全国津々浦々ライブに明け暮れる。
ソロ1stアルバム『ほんの気持ち』発表以来、8年ぶりの待望のソロアルバム『ほっぺのかんじ』Jaco’s Hat Recordsよりリリース。
Twitter:https://twitter.com/yosouchi
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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