今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティ
ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、年々ロックンロールに対する執着が強くなり、その表現のために付与するストーリーやペルソナがどんどん肥大化しているのだ。
かつては、すばらしかのキーボード担当であり “嘘は魔法”や“彼女は搾取されている”といった楽曲も残している、林祐輔によるソロ・プロジェクト「ゆうやけしはす」。今、思えばすばらしか在籍時に発表された1stアルバム『ニュー・ニート登場!!』(2019年)は、ストレートで非凡なポップ・ソング集だった。自身を50年前のヒッピー・ムーヴメントの復権として社会に反旗を翻す「ニュー・ニート」と称したアクの強いコンセプトは現在にも通じるものであるが、大半の演奏を手掛けた田中ヤコブ(家主)の尽力もあり、ハードボイルドな粗暴さと洗練されたメロディが心地よく同居したバランスの良さを感じる。
続く『怨恨戦士!! ルサンチマンvsシューマイ少女と神谷組 第一回戦 シケた街から風のように去れ!!』(2022年)ではSuchmosのOK(大原健人 / Dr)とKCEE(大原魁生/ Ba)、そしてTENDREやTempalayのサポートなどで活躍している亀山拳四郎(Gt)を擁したバンド編成での録音。The Kinksのアルバム『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組 第一回戦』(1970年)をもじったタイトル、自身をインターネットスラングである「無敵の人」に見立てて特撮ヒーローものに飛躍させるコンセプト、The Velvet UndergroundやGSを思わせるざらついたサウンドと音質、退廃的でありながら露悪的で人を食った歌詞と、どこをとってもカルト的な趣の作品だった。
本作はそこに続く3作目のフルアルバムとなるが、林はさらに「カルト」に振り切る。タイトルとなった『ロックンロール教団』の立ち上げを宣言し、自身は教祖として白装束に身を包むようになる。またバンドを解体し、キーボードだけでなくギター、ベース、ドラムを一から黙々と習得。要所で周りの力を頼りながらも、ほぼ独力でレコーディングとミックスまで行い、2枚組全28曲もの作品に仕上げるという暴走っぷりだ。
それぞれのディスクの冒頭と、最終曲“太陽の巫女”のラストには『ロックンロール教団』のサウンドステッカーが入ったり、“入信”や“煩悩寺”では般若心経が流れるなど、いかがわしくもユニークな宗教メタファーが要所に登場する。演奏としては前2作に比べて拙い箇所が見受けられるが、教祖として振る舞う林のテンションが終始高く、ゴキゲンなムードが約1時間半もの間ずっと続くのだ。
一方でサウンドとしてはロックンロールを軸としながら、様々な領域に足を延ばしているのが特徴。唯一のインストゥルメンタルである“Ambient Blues”はフリージャズだし、“デンデケデケデケおじさん”はニューオーリンズ・サウンド、“ブリブリブギウギ”のアカペラ部分はドゥーワップ、“増税メガネ”なんてもはやプロテスト・フォークである。ここにもバンド形態を離れて、自分の意のまま制作できることの喜びが表れているように思える。
またモロにツェッペリンを感じる“SUSANOO”を始め、パロディもふんだんに散りばめられている。“湯けむり”の歌詞の背景にはっぴいえんどを忍ばせているが、大瀧詠一が作るコミックソングやノベルティソングのようなテイストが常に垣間見えているのも現代のソロアーティストとしては珍しい指向性である。
このパロディ精神は音源作品を飛び出し、現在YouTubeでは架空の映画『ロックンロール教団』の予告編が公開されている。B級感満載の青春活劇、しかも予告編だけを作るという突飛な企画を仕掛け、企画・編集・監督に小池茅、主演にYouTuberで音楽評論家の みの(みのミュージック) を誘い出すという実行力に感嘆する。密室的で急進的でとにかく過剰な林のロックンロール・クリエイティビティ。ニート、ルサンチマン、教祖と様変わりしていく中で、トリックスター的な魅力もどんどん増してきている。
ロックンロール教団
アーティスト:ゆうやけしはす
仕様:デジタル
発売:2024年8月28日
配信リンク:https://link-map.jp/links/jw3idloz
収録曲
【Disc 1】
1. 入信
2. ロックンロール教団のうた
3. 教祖A
4. 海のバッファロー
5. Summer Of Your Love
6. サイケな野球
7. 逃れられない
8. アセンションプリーズ
9. 風の時代
10. 太陽にすがりながら
11. ダルいなあ
12. 時が過ぎれば
13. Ambient Blues
【Disc 2】
1. 鎌倉のテーマソング
2. ギリギリガール
3. デンデケデケデケおじさん
4. 煩悩寺
5. SUSANOO
6. 湯けむり
7. 世界で一番不幸だぜ
8. じゃあまあいいか
9. ブリブリブギウギ
10. 増税メガネ
11. 無敵の小学生
12. セミ
13. 月の面
14. 5時
15. 太陽の巫女
ゆうやけしはす
「ゆうやけしはす」=本名 林祐輔(はやしゆうすけ)をアナグラムしたソロアーティスト名。読み方は「ゆうやけしわす」。バンド「すばらしか」でKey/Voを担当後、本格的にソロ活動を開始。60’sのロックンロールを基調としつつ、現代社会の様々な問題に対し人を食った様なユーモア溢れる歌詞が特徴。2024年までに3枚のフルアルバムをリリース。LPや7インチシングルでのフィジカルリリースも積極的に行なっている。
元々は鍵盤奏者でありながら最新アルバムではギター、ベース、ドラムを担当し、自身で録音、ミックスをし且つMVの動画編集まで行うマルチプレイヤー。アルバムごとにキャラクターを設定しそれを演じている。現在はロックンロール教団の教祖。ex.ニュー・ニート、ex.ルサンチマン。
Webサイト:https://yuyakeshihasu.net/
linktree:https://linktr.ee/yuyakeshiwasu
X(旧Twitter):@yuuyakeshihasu
You May Also Like
WRITER
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
OTHER POSTS
ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com