
マリンビスト松本律子が採集する会話・民話・自然音-福島県川俣町でのアルバム制作に至る、彼女の生きる道
マリンバ奏者の松本律子が、2025年2月7日にアルバム『Dear KAWAMATA』を発表。福島県川俣町に通いつめ、自然の音や住まう人々との会話を録音し、自身の演奏と組み合わせて仕上げられた音楽作品である。独自の音楽性に至った40年以上に渡るマリンバのキャリアと、本作の背景を聴いた。また後半にはアルバム完成を記念して、川俣町で開催された模様をレポートとしてお届けする。
『Dear KAWAMATA』完成記念「お礼のつどい」レポート
2024年10月から2025年1月にかけて、松本律子は自宅のある神奈川県相模原市と福島県川俣町を5往復し、延べ3週間ほどを現地で過ごした。100人近い人々と出会ってお話を伺い、お茶や手拍子をいただき、録音機を持って町中を駆け巡り……そこで手にしたお宝を持ち帰って、自ら奏でるマリンバや電子音と共に『Dear KAWAMATA』を制作した。作品が完成して一般公開される前に、出会った方々に感謝を込めて最初に聴いていただこう、この作品をまず川俣町に捧げよう、というのは制作者としての最も自然な気持ちであり、『お礼のつどい』は企画された。
お一人、お一人の顔を思い浮かべながら、できるだけ多くに足を運んでいただけるよう、まず開催日時については1月31日(金)~2月2日(日)に渡る平日午前、週末午前、週末午後の3日間が設定され、開催場所は町のみなさんのホームともなっているお馴染みの〈福田公民館〉と、最近若い世代がオープンしたコワーキングスペース / カフェである〈Kawamata-BASE〉を会場とした。この1時間ほどのつどいには、3歳から90代まで計150人を超える方々が足を運んでくださった。
当日の流れとしては、まず最初に短い自己紹介と趣旨説明、そして15分ほどのマリンバの生演奏が披露された。「佐藤恒貞の孫です」との自己紹介でまず場が和む。セットリストは来てくださった方々の顔ぶれや反応を見ながらその場で決まっていく。“川俣町民の歌”では自然に客席からハミングが起こり、マリンバの来歴を紹介する場面では感嘆の声が上がった。また新聞の折り込み広告を見て、初めてのマリンバを聴いてみたいと来てくださった方の笑顔も印象的だった。
その後は、いよいよ『Dear KAWAMATA』の試聴会だ。全13曲通すと50分に渡る本作。その日の会場の顔ぶれを見ながら曲を選び、制作のエピソードを紹介しながら、聴いていただく。その流れで関わってくださった方からもお話しをいただく対話の場にもなっていた。「自分の声がまさかこんな作品になるなんて」「続けてきたことが報われた」「自分が暮らしてきた川俣がまた好きになった」……。みなさんが真摯に作品を聴いてくださり、時には涙ぐんで話してくださる姿は感動的だった。
最後の歓談交流タイムは、ゆるゆるとしたお開きの場。何人もの方が促されてマリンバを弾いてみたことで、見せてくださった笑顔は想定外のプレゼントだった。この作品が、本当の意味で町のみなさんとの共同制作であったことに気付かされ、同時に音楽の役割や可能性についても考えさせられる契機となった3日間だった。
(スタッフ 永田純)
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WRITER

- 峯 大貴副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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- 乾 和代編集者 / ライター
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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