
ゆうやけしはす&すうらばあず、古山菜の花が化け、みのミュージックがつなぐ。『音楽深化論』に登場した二組、初共演の夜
ゆうやけしはす&すうらばあずが共演にシンガーソングライターの古山菜の花、DJにみの(みのミュージック)を迎えて、2025年11月20日に〈青山 月見ル君想フ〉でライブイベント『深化の月』を開催した。共にみの主催の音楽オーディション番組『音楽深化論 〜the battle〜』に出演した二組による初共演。そこにはゆうやけしはすの狙いがあり……当日の模様をレポートする。
仕掛人・ゆうやけしはすが、古山・みのとのイベントを目論むわけ
林祐輔がどんどんトリックスターになっていっている。しかも自己プロデュース力を兼ね備えた、したたかさも携えて。会場である〈青山 月見ル君想フ〉をあとにして、外苑前駅まで歩いていると、そんな余韻がじわじわと沸き上がってきた。
でもこれは今に始まったことではない。2019年からソロプロジェクト“ゆうやけしはす”が始動し、在籍していたすばらしかを脱退して以降、あるペルソナに降臨させながらコンセプト・アルバムを作るという、他のシンガーソングライター・キーボーディストと一線を画した活動を行ってきた。1960年代のヒッピー精神を現代社会に移植させた1stアルバム『ニュー・ニート登場!!』(2019年)、ネットスラングの「無敵の人」を特撮ダークヒーローとして描いた2ndアルバム『怨恨戦士!! ルサンチマンvsシューマイ少女と神谷組 第一回戦 シケた街から風のように去れ!!』(2022年)、ロックで人々を洗脳する宗教団体の教祖になりきった3rdアルバム『ロックンロール教団』(2024年)、そして林より10歳以上年下のメンバーからなるバックバンドすうらばあずを率いた4thアルバム『湘南サイケ』(2025年)……。いずれも強烈なダークユーモアとパロディ精神が息づいているが、サウンドとしては60~70年代のクラシックロック、サイケデリックロックに改めて普遍性や大衆性を見出していくという、レトロモダンな志が一貫している。また裏を返せば、そんな自身の音楽性に注目を集めるためには、仕掛けが必要だという自覚が常に林の中で渦巻いているのだ。
2025年11月20日に開催された林が企画したライブイベント『深化の月』は、ゆうやけしはす&すうらばあずに加えて古山菜の花が出演、みのミュージック・みのがDJを務めた。この布陣を思いついた時の彼のニヤリとした顔が浮かぶ。みのは2022年にYouTubeチャンネル『みのミュージック』でゆうやけしはすを取り上げて以降、『ロックンロール教団』の映像作品にも主演するなど、林に手を差し伸べてきた。また今年、みのが主催する音楽オーディション番組『音楽深化論 〜the battle〜』の第1回目にもすうらばあずを連れ立って出演。グランプリは惜しくも逃したのだが、審査員からも好評を得ていた。そこに続いて第2回のソロシンガー版でグランプリを果たしたのが、古山菜の花だった。「令和のたま!?天才少女現る」との見出しで“もののけはいないよ”を披露した動画は210万回再生(2025年12月現在)を突破。一躍話題を呼んだことを受けて、『音楽深化論』のつながりをイベントにしてやろうという企てである。チケットは早々にソールドアウト。林の狙いは見事に的中した。
はっぴいえんど、ビートルズの再来を目指します!
そんな中、登場したのはゆうやけしはす&すうらばあずの方だった。主催者はトリに出ると思っていたので意外に感じたが、注目度の高い古山に後を任せ、自分たちも確実に観てもらおうという意図がうかがえる。厳かなハモンドオルガンの音色を弾き始め、歌い始めたのは“朝バナナ”。キャッチーなメロディに、The Velvet Undergroundへの憧れを込めた歌詞とサウンド、倦怠感を湛えながら吐き捨てるような林の歌が響き渡る。間髪入れず“春だな(ハレクリシュナ)”、“太陽の巫女”と、まるで60分の持ち時間で出来る限りの曲数を詰め込んでやろうという気概だ。また唯一のインストゥルメンタル曲“アジアの壁”の背後にはKhruangbinが透けて聴きとれるし、“湘南ブギ”にはサザンオールスターズのデビュー当時を思わせる地元愛とウエスト・コースト感が滲んでいる。幅広いリファレンスを換骨奪胎していくオマージュセンスこそが最大の魅力だ。またすうらばあずの牧野陽輝(Gt / Cho)、弓場俊太郎(Ba / Cho)、佐々木檀(Dr)による演奏と所作も、見事に林と呼応したワイルドで耽美的なものだ。
MCでは『音楽深化論』で惨敗したことと、「インディペンデントって勝てなかった人間の吹き溜まり。負けてからが勝負」の精神で古山とのイベントを組んだ意図を説明。そして古山が「たまの再来」ならば、自分たちは「はっぴいえんどの再来」として披露したのはなんと“はいからはくち”のカバー。ドシッとした2ビートにアレンジされ、ここで林もエレキギターを持ち出す。そして牧野と1本のマイクで歌うビートルズスタイルで、観客を沸かせた。その後も“恋をしようよ”では声色までOtis Reddingに寄せたり、“BBAの陰謀論”では童謡“通りゃんせ”に音頭を掛け合わせるなど、彼のオマージュは大瀧詠一のパロディセンスにも近しい。その点において「はっぴいえんどの再来」もあながち大それた呼称でもない気がしてきた。
ラストはSly&the Family Stoneの日本語訳カバー“ランニンアウェイ”、そして牧野のジミヘンばりのギターソロも飛び出した“サイケ!”で締めくくり。全18曲も披露し、この日は古山とのコラボはないことを宣言。純粋に彼女のステージを楽しんでほしいことを告げて、再びみののDJにバトンを渡した。
日本の歌謡曲、最良の遺伝子を受け継ぐSSW・古山菜の花
古山はまずはキーボードの位置に付き、「改めまして古山菜の花でございます」と一言挨拶し、“殺人鬼の唄”から始めた。昭和歌謡やシャンソンを感じさせる抑揚や、演技をするように声色を自在に変えていく歌唱法は独自のもの。知久寿焼(元たま)だけではなく、美空ひばり、笠木シヅ子、大竹しのぶ、Ella Fitzgeraldまで顔を覗かせているじゃないか。加えて一曲ごとに周到に挟むお喋りも、まるで落語家や講談師を役に入れているかのように立て板に水。客席からの声掛けも見事に拾ってくすぐりを加える手練れっぷりだ。まだ今年1st EP『菜の花とかいうらしい。』を発表したばかりの新人シンガーソングライターにして、そのキャラクターはすでに確立されている。
アコースティックギターに持ち替え、高らかにカズーを吹き鳴らして始めた“嫌太郎”は一転してカントリー調の軽快な楽曲だ。威勢のいいギターストロークだが、細かいオブリガートが実にテクニカル。またピックを使っていないことからも、アコギなのにウィルコ・ジョンソンを強烈に思い浮かべた。ここまで述べていることからも、「たまから強い影響を受けている人」の枠には全く収まり切っていないのである。
中盤には「この曲で私のことを知っていただいた方がほとんどかと思いますが」と、自宅でおばけが出るという話を前置きとして『音楽深化論』で演奏した“もののけはいないよ”を始めた。メインフレーズの背後で珍妙に鳴るギターチョーキングは、モノノケたちが近づいてくる足音そのもの。“ゲゲゲの鬼太郎”や、たま“らんちう”にも感じた、背筋が凍るような不穏さがありながらもユーモラスに戯画化された怪奇的ポップ・ミュージックだ。涼しい顔で歌い、弾きこなす古山にすら徐々に恐怖を覚えてくる。
その後は最新リリースの“イエスマン”、“恋焦がして”、そして再びキーボードに移り新曲“晴れるよ”、そして“ラブホテルで働くということ”と披露していく。“マジシャンの恋”では最後に見事なアップテンポのピアノソロで手拍子を巻き起こしてステージを降りた。林の宣言の通りこのまま終演となるはずが、鳴りやまない拍手に古山が再登場。想定外でたじろぎながらも「私がライブをするときに、楽しみにしていること。それは演奏することと、みなさまとお話すること、そしてお酒を飲むことでございます」と流暢に締めくくり、西岡恭蔵“プカプカ(赤い屋根の女の子に)”のカバーでさらに会場を沸かした。この日の4日後に25歳を迎えるという若さながら、日本の歌謡曲における最良の遺伝子を受け継ぐ存在としてのオーラをひしひしと感じ取った。
どんどん化けてくトリックスターともののけシンガーソングライター
開催からおよそ2週間経った12月5日、ゆうやけしはす&すうらばあずが今年2作目となるアルバム『サイケデリック・クリスマス』が発表された。ライブでも表題曲が披露されていたが、いざ聴いてみると全曲つながったロックオペラの構成で、このストーリーにあわせて描かれた灰村マオによる絵本とセットになっているという相変わらずの凝った仕掛けをとんでもないペースで実践していて感服した。かと思えば古山も元たまの知久寿焼との共演動画がアップされ、“もののけはいないよ”を始め、たまの“ここはもののけ番外地”、“おるがん”のコラボ演奏にはあまりの食い合わせの良さに度肝を抜かれた。それぞれのルーツを背負って立つトリックスターともののけシンガーソングライターが、このあとどのように化けていくかで、私の頭は今いっぱいになっている。
写真:服部健太郎
サイケデリック・クリスマス

アーティスト:ゆうやけしはす&すうらばあず 灰村マオ
仕様:CD+絵本
発売:2025年12月5日
視聴リンク:https://linkco.re/XZmeqrau
購入リンク:https://www.roserecordsshop.com/ca2/499/
収録曲
1. サイケデリック・クリスマス
2. ひとりぼっちのくう
3. ボードゲーム
4. でくのぼうのフラック
5. かぜのフレッチャー
6. くいしんぼうのクリストファー・マクラーレン
7. グフ・ゲヘ・オホー
8. ぼくらのコンサート
9. オレンジ・ダイヤモンドランド・バンド
10. オレンジランドへようこそ
11. パーティをはじめよう
12. ディナー
13. ボードゲームII1
14. おやすみ
15. あかいくつした
サイケデリック・クリスマス
| 日時 | 2025年12月25日(木) |
|---|---|
| 会場 | 東高円寺 U.F.O.CLUB |
| 出演 | オレンジ・ダイアモンドランド・バンド(Performed by ゆうやけしはす&すうらばあず) |
| 料金 | 前売り ¥3,000 / 当日 ¥3,500(+1ドリンク) |
| チケット予約 |
素っ頓狂であれ!
| 日時 | 2025年12月29日(月) |
|---|---|
| 会場 | 東高円寺 U.F.O.CLUB |
| 出演 | 幸ヅ。 / 柿の花 / マヌカンの顔 / 闇魔此れ虚 / 古山菜の花 |
| 料金 | 前売り ¥2,500 / 当日 ¥3,000(+1ドリンク) |
| チケット予約 | https://nanohakoyama.ryzm.jp/live/f4019341-1fa2-4711-9302-4e32e2a1bac1 |
PSYCHO BLUES
| 日時 | 2026年1月8日(木) |
|---|---|
| 会場 | |
| 出演 | 刺身は結局しょう油味 / 島崎智子 / 古山菜の花 |
| 料金 | ¥3,300(+1ドリンク) |
| チケット予約 | https://nanohakoyama.ryzm.jp/live/ba188b7f-d746-4c43-81f3-e1cedfff115c |
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- 副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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