
「JIROKICHI出身のライター」であり続けるために(書籍『次郎吉 to JIROKICHI-高円寺のライブハウスが歩んだ50年』から特別公開)
2025年に創業50周年を迎えた東京・高円寺のライブハウス〈JIROKICHI〉。その歩みを膨大なアーカイブ資料とともに一冊にまとめた記念書籍『次郎吉 to JIROKICHI -高円寺のライブハウスが歩んだ50年-』が2026年2月6日に発売される。
この記事では「この場所で育った」と自負するANTENNA副編集長・峯大貴が、書籍に寄稿したコラムを特別公開。またthe Tiger、ROWHOOのインタビューも担当しているので、続きはぜひお手に取ってご覧ください。
2020年、JIROKICHIが45周年を迎えた際のパンフレットに寄稿したコラムを今、読み返している。「そんなおめでたい機会に、年齢遠く及ばぬ28歳の筆者が……」との書き出しに、時の過ぎる早さを痛感している。現在筆者は34歳。有志スタッフをしていた野外コンサート『祝春一番』のポスターをお渡しするため、初めてJIROKICHIに足を踏み入れたのは、大阪から高円寺に上京してまだ1年ほどの2015年4月ごろ。つまり今年2025年はJIROKICHIに出入りするようになって10周年でもある。
普段は音楽ライターとして活動している私が、初めてJIROKICHIでブッキング・イベントを任せていただいたのも45周年の時だった。タイトルは『うたの化身』。1975年のオープン初日は高田渡、友部正人、いとうたかお、シバらシンガーソングライターが出演するイベントだったことを受け継ぎ、JIROKICHIにフレッシュな「うた」の新風を吹かせるというコンセプトにした。2020年2月6日の第1回は大石晴子、松井文、butajiの3組。続く11月21日には浮と石指拓朗が出演。あくまでJIROKICHIの周年を盛り上げるために一肌脱ぐというイベントだったので、以降はまたお客さんとして遊びにいく期間が続いていた。
そしてこの50周年。久しぶりにJIROKICHIのボスである美帆さんから相談を受けた。「『うたの化身』またやらない?峯くんが選ぶミュージシャンをJIROKICHIに連れてきてほしい。1日だけじゃなくて、出来れば2日間」。そう言われたら「やります」と言うしかなかった。コンセプトは変えず、シンガーソングライターによる弾き語りツーマン形式。9月15日は井上園子、岡林風穂。9月16日は大石晴子、工藤祐次郎に声をかけた。
風穂は岐阜県から高円寺に昨年上京し、高円寺のお店でアルバイトをしていて、工藤さんも長らく中央線界隈に住んでいるそうだが、二人ともJIROKICHIには出演したことがないとのことで、この機会に接点を作りたかった。昨年のアルバムデビューから飛躍的に活動の幅を広げている園子は、今じゃないとJIROKICHIのキャパシティに収まらなくなってしまいそうと思ったのと同時に、フォークやカントリーの遺伝子を受け継ぐ彼女だったら、この場所の良さを絶対わかってくれると思った。そして晴子は何より1回目に出てくれた盟友であり、あまりライブをする機会が多くない中、肩の力を抜いて今の彼女の表現を試せる場所を作りたかった。
4人全員に必然性があり、4人全員二つ返事で快諾してくれた。この顔ぶれで来てくれるお客さんだったら、JIROKICHIという場所の魅力も伝わるはずだ。結果、2日間とも大盛況。なにより嬉しかったのは、お客さんから「このライブを“JIROKICHIで”観れたのがよかった」という声をたくさんいただいたこと。そして〈妄想インドカレーネグラ〉のオーナー思朗さんや〈小杉湯となり〉のほてちゃんなど、高円寺にある他の店の方も初めてJIROKICHIに来てくれたこと。この2日間は私からJIROKICHIへの恩返しのはずが、今後の私の自信にもつながった。
この投稿をInstagramで見る
2025円9月16日、大石晴子と工藤祐次郎によるリハーサル動画の投稿。この日のアンコールではCHAGE&ASKA“LOVE SONG”のコラボレーションが披露された。
約2年半前に生活が変わり、8年間住んだ高円寺から世田谷線沿線に引っ越した。JIROKICHIとの関わりや思い入れは変わらないが、行く頻度こそ減ってしまった。また終演後は〈Balcony Cafe & Bar SWAMP〉や〈ペリカン時代〉で一杯飲んで帰るのもルーティーンだったが、終電を気にして真っすぐ帰るようになり、毎度少し名残惜しい気持ちでいる。そしてもう一つ変化に気づいたことがある。JIROKICHIから帰る時はいつもバーカウンターにいるメグさんに声をかけていただくのだが、「またねー!」から、いつの間にか「いつも応援してるで!」に変わったのだ。大阪から上京し、20代からこの場所で遊び、社会人として音楽ライターとしてどうにかサバイブしているところをずっと遠くから見ていただいているJIROKICHI。そのメグさんにかけていただくこの言葉は、人生のネクストステップを進み高円寺を離れた私にとって、たまらなく心強くて優しくて。毎回店のドアを開けて外に出る時、少しだけ感極まってしまうのだ。
私がJIROKICHIから学んだことは大きく次の二つ。「一つの場所に根を張りながら、ライブをする場所としての役割に留まらず、集った人たちの縁や思い入れを受けとめ、次の世代に引き継ごうとする意志を持つこと」。そして「演者へのリスペクトに溢れていながらも、同時に演者・観客・スタッフを全て尊重すべき個人として、フラットに受け入れ、接すること」。これらはそのまま私の音楽ライターとしての指針になっている。だから私は勝手に「JIROKICHI出身のライター」を自認しているし、その誇りを持ちながらこれからも活動していきたい。
続くページ※に登場するthe TigerとROWHOOもJIROKICHIを通じて出会った、私と比較的近しい世代のミュージシャンだ。数多くのレジェンドたちによる証言と合わせて、20~30代である彼らのJIROKICHI観や思い入れにもぜひ触れてもらいたい。そしてこの二組や私と共に、50年に及ぶこのバトンを受け取る同世代や新たな世代が増えていくことに期待しているし、尽力したいと思う。
※本記事の引用元である書籍では、次のページよりthe TigerとROWHOOのインタビューが掲載されている。
次郎吉 to JIROKICHI-高円寺のライブハウスが歩んだ50年

コロナ禍を乗り越え、2025年に創業50周年を迎えた東京・高円寺のライブハウス〈JIROKICHI〉。本書は、1975年の開店から現在までの歩みを、膨大なアーカイブ資料とともに一冊にまとめた記念書籍です。
出演ミュージシャンの貴重なインタビュー、50年分のライブスケジュール、未公開写真、当時のチラシ等、ライブハウスの“リアルな日常”を克明に記録。ジャズ、ブルース、ソウルなど多様なジャンルが交差する「音楽の交差点」としてのJIROKICHIの姿と、その背景にある高円寺という街の変遷も浮かび上がります。
さらに、全50年間のライブスケジュール表紙ギャラリー、壁や柱に刻まれた出演者たちのサイン、周年ポスター&フラッグ、秘蔵写真・エピソードも多数掲載。ビジュアル面でも圧巻の内容です。
各ページからあふれるミュージシャン、スタッフ、観客の情熱は、ライブハウスが単に演奏したり、聴いたりするだけの場所ではないことを伝えてくれます。これからの音楽シーンで活躍したい人たちにも大きなヒントを与えてくれるはずです。
発売:2026年2月6日(金)
価格:¥4,500(税抜)
B5判 / 214頁
Live Music JIROKICHI 編
ISBN:978-4-911484-03-6
Special Interviews
坂田明 / 仙波清彦 / 木村充揮 / リクオ / 本田珠也 / 上田正樹 / 町田康 / 和泉聡志 / 吾妻光良 / 金子隆博 / KenKen / 鶴谷智生 / 森崎ベラ / 矢代貴充(BLUE GROOVE代表) / 三柴理 / KOTEZ / 森本レオ / the Tiger / ROWHOO / 山下達郎(45周年パンフレット再掲)
対談
永井ホトケ隆×山岸潤史 対談
その他
イラストレーター・いしかわともひさ、GEORGE MOMOKO、伝陽一郎のインタビューや、久原大河による描き下ろしJIROKICHI内観図、高円寺カルチャーマップ(和田博巳[はちみつぱい]インタビュー付き)
購入リンク
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4911484039/
楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/18495866/
ヨドバシ.com:https://www.yodobashi.com/product/100000009004207591/
You May Also Like
WRITER

- 副編集長
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
OTHER POSTS
ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com