【峯大貴の見たボロフェスタ2018 / Day3】ULTRA CUB / Gateballers / カネコアヤノ / LOSTAGE / サニーデイ・サービス / 吉田省念
ボロフェスタ最終日。3日目となれば有志スタッフはもちろん、通し券で参加している観客にとっても疲労が蓄積されていることだろう。それだけ濃密な時間がKBSホールには流れている。しかし気を抜いている暇なんてねぇぞ!と身体に鞭打って体力の向こう側に連れて行ってくれるようなラウドでカオス、そしてハプニングが生まれるような座組が仕込まれているのがいつもこの最終日なのだ。2013年、ソウル・フラワー・ユニオンにBiSと非常階段が加わっての“こたつ内紛争”で演者、観客、そしてスタッフまでもが全員踊り狂った光景、2015年のフラワーカンパニーズがメインステージで“真冬の盆踊り”を始めたら隣のステージで準備中のNATURE DANGER GANGも踊りだしてヨサホイコラボが起こった光景、そして昨年2017年でいえばステージではなくフロアにセットを用意しホール中をかき乱したodd eyesの混沌としたエモーショナルの光景。観客はもちろん運営側の想像をも超えてしまうようなボロフェスタという場が引き寄せるマジックが確かにある。オルタナティブ・フェスとしての自覚がダメ押しとばかりに覚醒する最終日の模様を読み解いていこう。
ULTRA CUB
やはり並々ならぬ気合を感じたのは今年のホストバンドとしてボロフェスタに運営から関わった京都の4人組ULTRA CUB。前のめりなビートと何かでかいことやりたくてうずうずするような歌詞、その汗の匂いが立ち込める立ち振る舞いはパンクバンドの作法として完璧であるし、今年の街の底STAGEは俺たちが作ったといわんばかりの誇りすら感じられた。とはいえ“KILL ME BABY”を始めとする一たび聴けばすぐにシンガロングできる人懐っこいメロディ、ポップセンスはカーミタカアキ(Vo / Gt)の昨年まで活動していたバンド、加速するラブズから変わっていない。前の日が出番だったMoccobondしかり今年のホストバンドはどちらも一度バンドをリセットして、再び邁進している真っ盛り。そのワンスアゲインの熱量が確かにボロフェスタと共振していたことがわかるステージであった。
Photo:Furuhashi Yuta
Gateballers
ULTRA CUBを始めこの日の街の底STAGEはエモーショナルを丸ごとぶつけてくるようなバンドが勢揃いしていたが、2年ぶりの出演となったGateballersはその中で満杯の観客をググっと演奏に引き込ませるステージを展開する。濱野夏椰(Vo / Gt)による歌が彼らの軸にあることには違いない。しかし自身も弾き語りやゆうらん船のフロントマンとして活躍する最強の助っ人、内村イタル(Gt / Sam)を始め、カネコアヤノバンドやゆうらん船でも活動する本村拓磨(Ba)、ナツノムジナとしても今注目を集めている久富奈良(Dr)という今のライヴハウス・シーンの若きドリームチームとも言えてしまう彼らだ。それぞれの確固たるプレイスタイルが火花散らして摩擦する。まるで楽曲として成立する境界に挑戦しているような猟奇的サイケデリアの大展開。途中内村の叩くパッドがスタンドから落ち、手持ちで演奏を続けるハプニングもあったが、最後の新曲“イマジネーション”までじわじわ押し寄せる快感、見事な東京からの刺客っぷりであった。
Photo:Furuhashi Yuta
カネコアヤノ
本村拓磨はその後、ホール内でのカネコアヤノのバンドメンバーとしても怪奏を見せる。昨年カネコは弾き語りでジョーカーSTAGE(昨年の名称はどすこいSTAGE)に出演し、観客一人一人とグッと対峙するような歌を披露していたが、今年はバンドメンバーと共に登場しアルバム『祝祭』を作り上げた今の充実を目に焼き付けてほしい!とばかりに良い意味で肩の力が抜けた立ち振る舞い。観客もググっとステージ前に押し寄せ、常に手を振り上げている人も多く、『祝祭』の歌心がどれだけの人の心を打ったかを改めて実感する光景となった。そんな上々の反応に乗じてカネコもどんどんご機嫌になり、快活で突き抜ける歌はもう無双状態。2017年発表の“とがる”からギアが切り替わったようにどすっと肝が据わり始めた歌物語は完熟し、この日の“恋する日々”はカネコが歌わずとも「冷たいレモンと炭酸のやつ」と観客が合唱する。心の奥底にたまったエネルギーを全力で放射するようなカネコアヤノは、今まさに日本のシンガー・ソングライターの〈さいしん〉を体現している。
Photo:Machida Chiaki
LOSTAGE
ここまで今まさに階段を駆け上がるかような勃興する新世代たちのステージを描写してきたが、手弁当で作り上げるこの音楽文化祭を楽しみながらも見守る、確かなキャリアを持った一枚看板のステージが見ることが出来るのもボロフェスタの楽しみだろう。中でもこの日のLOSTAGEからサニーデイ・サービスへとステージのバトンが渡る豪華な並びは長年、京都のフェスティバルの役割を務めあげてきた信頼と実績と言える部分だ。LOSTAGEは2010年以来の出演。奈良を拠点とし、THROAT RECORDSや音楽フェス〈生活〉の主催を始めD.I.Yの活動を取っているという点でボロフェスタとはこれまでも互いに切磋琢磨してきた。そんな精神的な共鳴をステージで表現するような美しい轟音が、オルタナティブ・フェスとしてのアイデンティティをKBSホールに改めて叩き込んでいく。しかし“さよならおもいでよ”や“ポケットの中で”といった昨年のアルバムからの楽曲やこの日披露された新曲を聴いてわかるように、単に音圧とエモーションで攻め立てるのではない。一つ一つの言葉と音が説得力と含蓄を持ち、その美しい熱量によって圧倒される。D.I.Yとは、オルタナティブとはスタイルじゃない、自決をし続けるその生き様だということを突き付けるようなステージであった。
Photo:Machida Chiaki
サニーデイ・サービス
一方でサニーデイ・サービスは“スロウライダー”からスタートしいきなり会場から大きな歓声があがる、その後も“桜super love”、“One Day”以外は2000年の休止前までの楽曲群を連続で放つ大盤振る舞い。そこには今年5月に亡くなった丸山晴茂との青春の日々を観客と一緒に思い起こすようでもあるが、追悼ムードにはならず極めてうららかな佇まい。曽我部恵一(Vo / Gt)の表情も晴れやかそのもので「ボロフェスタはいつも最高」とつぶやき、また次の名曲を披露していく肩の力の抜けた立ち振る舞いは、曽我部恵一BANDやソロ名義など様々な形で通算10回の出演を誇る彼だからこそ醸し出せるホーム感とも言えるだろう。また予定のセットリストを終えて2分残したということで曽我部と田中貴(Ba / Cho)のオリジナルメンバー2人で“東京”を披露。会場に幸せの空気を充満させた惑うことなきボロフェスタの良心と言えるパフォーマンスであった。
Photo:岡安いつ美
吉田省念
時刻は20時。刻々と終演が近づいているもの悲しさと、ここまでの満足感と疲労、そしてなにより大トリBiSHへの最後の期待などの感情も入り乱れる中、ジョーカーSTAGEに登場したのは吉田省念。ギター1本で“茶の味”の演奏が始まった瞬間から、すっと様々な感慨が消え失せてこの人特有の朴訥な時間に引き込まれる、全く不思議な存在感だ。途中からはザッハトルテのウエッコ(Gt)もゲストに呼び込んで、音像はますます温かくなる。奇妙礼太郎の最新アルバムに提供した“星”、“More Music”も吉田自身の歌唱で披露され、まるで彼の持つ〈九条山省念スタジオ〉でのセッションを垣間見ているかのようなプライベイトな空間。熱量ほとばしるボロフェスタの空間にそこだけ少し違った、しかし確かに純血な京都の彩を放つ、最後に披露した楽曲よろしくまさに“桃源郷”といえる光景であった。
Photo:Furuhashi Yuta
エンドロール
ここまで語ってきたことの他にもGEZANが昨年のボロフェスタのエンドロールのBGMとして“END ROLL”を使用した心意気を買って今年はステージの最後に披露し、思わず号泣している観客が多数いた粋な伏線回収。Limited Express(has gone?)×ロベルト吉野でのフロア中央に置いた脚立で絶叫するYUKARIとその周りでサークルモッシュを起こすBiSH清掃員の混沌。街の底STAGEでトリをとっていたメシアを人人は観客もろとも地上に上がりホール外まで飛び出して演奏を続ける。演者それぞれが与えられたステージの役割と意味を考え、そのオファーの意図を意地でも超えてやろうとする光景が各ステージで起こっていた最終日であった。
終演に向けて各ステージでは今一度土龍が回って「大トリの後のエンドロールを見てってください!エンドロールを見ないとボロフェスタに来たって言っちゃダメ!」と必死に観客に訴えかけていた。大トリのBiSHが終わり流れ始めたエンドロールでは全アーティスト、全スタッフ、全協賛者のクレジットが流れる。その背景に流れたのは今年亡くなったECDの「君といつまでも(together forever mix)」。それも単なるBGMではなく〈The Last Act〉として紹介される形で。あらゆる現場で声を上げ続け、まさに「音楽を止めるな!」の姿勢を体現してきた彼はボロフェスタにも多大な影響を与えた。ガンを公表した2016年にはVol.夜露死苦で〈DJ言うこと聞くよな奴らじゃないぞズ〉としてECDオンリーのDJタイムを設け、エンドロールでは〈Please come back soon〉と掲げエールを送り、2017年の2日目にもエンドロールで“LUCKY MAN”をかけ、常に復活を願ってきた。今年のエンドロールはECDに改めて感謝を捧げると共に、彼の姿勢にこれからも学びながら、音楽が鳴り続ける場を京都で作っていくという確かな継承の念を捧げるレクイエムに思えた。
またエンドロールの最後には毎年三ツ星が掲げられる。開催初年度の2002年から2007年までボロフェスタが開催されていた、京都大学西部講堂の屋根に描かれた象徴的なオリオン座。ボロフェスタは京都が誇る音楽の殿堂にも毎年リスペクトと継承の意を表明し続けている。
綺羅星のようなステージ1つ1つの場面が繋がり星座となって物語が生まれる場所。ボロフェスタの音楽が止まることはない。
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WRITER
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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