東京のシンガーソングライター平賀さち枝と、京都から飛び出した4人組バンドHomecomingsによるコラボ・ユニット<平賀さち枝とホームカミングス>が2年ぶりの新作を12インチ・アナログ盤と配信でリリース。フェスなどへの出演を中心に不定期に活動してきたが、昨年のフジロックに出演した際にCD-Rで会場販売された2曲が収録されている。
これまでの2作『白い光の朝に』(2014年)と『カントリーロード / ヴィレッジ・ファーマシー』(2018年)での2組の構図は、平賀の澄み切った歌によって広がる日常の情景を、ホムカミが年の近いお姉さんのように慕い、憧れをもってバンドサウンドで包み込む形であった。当時はまだ全編英詞のインディー・ギターポップ・バンドであったホムカミにとってこのコラボは、常に自身の音楽を相対化して見つめる機会として重要な場所となっていたのだろう。そして最新アルバム『Whale Living』(2018年)以降、アコースティック主体のオーガニックなアンサンブルでもって、日本語詞へとスムーズに舵を切ったが、これも平賀と積み重ねてきたコラボが背中を押したことは想像に難くない。一方で平賀にとってもここで見せる姿には、つかの間の青春時代へ立ち返るようなハツラツとしたフレッシュさが滲んでいた。だから両者の相乗効果によって、それぞれの違った一面が引き出されるプロジェクトであったのだ。
そんな幸せな過去2作に対して本作“かがやき”が放つ温度は対照的だ。歌詞は内省的で特にサビで歌われる「さぁ永遠よ 寂しいニュースが届くより早く! 通り過ぎていくひかりを掴まえて」の部分には、ずっと信じてきたものがなくなってしまうことの喪失が表れている。柔らかにビートを彩る打ち込み、淡々としたギターのコードストロークなどサウンドも含めて、ホムカミの最新シングル“Cakes”(2019年)の続編といえるようなテーマを持ち、「寂しいニュース」という共通のワードも登場する。
しかし“Cakes”では「寂しいニュースがやってくるまで 君を待っていたのさ」「こうならないように歩いてきたのだ」と後悔に苛まれたのに対して、ここでは不安が立ち込める中でも先を進もうと、ほの暗い“かがやき”をどうにか捉えようとしている。具体的に明示はしていないものの、ホムカミに大きな影を落とした「寂しいニュース」と折り合いをつけるための楽曲だと言えるだろう。だから塞ぎこんだ気持ちを切り替え、リスタートを切る立会人として平賀の歌が必要だったのだ。共に歌う畳野彩加(Vo / Gt)を少し離れたところから見守るように丁寧に歌詞をメロディに乗せていくここでの平賀の声は、“かがやき”への道筋を指し示す聖母としての存在感を放っている。
そして平賀が作詞を手掛けた次曲“New Song”では畳野と平賀が大半のパートを初めてのユニゾンで歌っている。フォーキーで牧歌的なサウンドに乗せてピタッと揃った2人のメロディが曲の最後の一節で分かれて、ハーモニーとなる。「いつだってすぐに消えちゃいそうな白い光 つかもうとしてるの」。2組の始まりの楽曲を思わせる「白い光」を交えながら、それぞれの道へ向かうように声が離れる美しいエンディングは、平賀からホムカミに送る餞のようだ。
バンドメンバーではないが、これっきりのスペシャルな共演でもない。ポップ・ミュージックの送り手としてのいばらのような道すがら、確かな心の拠り所となっている平賀さち枝に背中を押してもらって、ホムカミは今確かに次のシーズンを始めようとしている。
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WRITER
- 峯 大貴
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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奈良県出身。京都在住。この街で流れる音楽のことなどを書き留めたい。
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