INTERVIEW

谷澤ウッドストック、西へ東へ―京都のギターが弾ける兄ちゃん、唄い続けた15年を語る

京都を拠点とするシンガーソングライター、谷澤ウッドストック。今や月の半分ほどは全国各地をライブして周り、ドラマ主題歌も務めるなど、じわじわとその活動を広げてきた。その15年に及ぶキャリアと歌に向き合う姿勢について、自身初というロングインタビューを行った。

MUSIC 2026.04.06 Written By 峯 大貴

高田渡やガース・ハドソン、あるいはボン・イヴェールを想起する豊かに蓄えた髭とつぶらな瞳。酒を口に含み、アコースティックギターを抱え、一たび声を発せば地鳴りのような野太い声が会場を満たす。いつもの光景だ。

 

1990年生まれのシンガーソングライター、谷澤ウッドストックは京都を拠点としながら、全国各地のライブハウスや居酒屋、喫茶店で歌い、また翌日には次の街へという生活を続けている。それは1970年代から続くフォークシンガーの活動スタイルの継承者とも言えるが、そんな見立てを煙に巻き「ただ呼ばれた場所で歌っていたらこうなった」という“流れ者”な在り方こそが最大の魅力と言えるだろう。

 

2020年代に入ってからは近藤芳正主演のWebドラマ『おやじキャンプ飯』の主題歌をシリーズ通じて務め、全国的な評価を集めるようにもなってきたし、最新曲“宵々”では初のバンドスタイルでのレコーディングに取り組むなど音楽的な進化もうかがえる。取り巻く環境や自身の志向がじわじわと移ろっているタイミングではなかろうか。

 

そう言えば、いつの間にか彼の通称である「ウッディ」と呼ばせていただいている私ですら、彼のキャリアや歌に向き合う姿勢について詳しく聴いたことがなかった。それくらい彼の歌はあまりに酒が進みすぎるし、また彼自身もライブ会場では酔っぱらっている。だから数度顔を合わせたことがあっても、真面目に話をしたことすらしたことがなかったのだ。このタイミングでどうしてもウッディの歩みを記録しておきたかった。

 

写真:浜村晴奈

谷澤ウッドストック

 

関西を中心に弾き語り。 ライブハウス、居酒屋、喫茶店、服屋、ギャラリーなど、場所を選ばないライブスタイルで聴く人に寄り添う歌を歌う。何気ないことを大げさに、壮大なテーマを何気なく。

 

Webサイト:https://tanizawawoodstock.jimdofree.com/

Instagram:@woodstock_dayo

X:@woodstock_dayo

流れるままに唄い続けて15周年

──

私がウッディさんの存在を知ったのはNovelman(2020年1月に活動休止)のギターボーカルとしてでした。そもそもいつから歌い始めたんですか?

谷澤

大学のサークルで組んだこのバンドが音楽をやるきっかけやったんで、2011年ですね。

──

このバンドも今の弾き語りに通じる、アコースティック・サウンドでしたが、なぜスタイルに行きついたんでしょう?

谷澤

なんでやろう……アコギ自体は中学の頃から親父のギターを弾いてたんです。それで大学時代にバンドを組みたいと思って、Gibsonのレスポールを買う。でも性に合ってなくて、いつの間にかアコギに戻っていましてたね。フォークが好きやったわけではなくて、高田渡もボブ・ディランもトム・ウェイツも自分の歌を聴いてくれる方に「お前は知っておいた方がいい」と教えてもらいました。「ゆず」に憧れていたんですが、自分が歌っても全然そうなれへん。だからこっちの方向なんかなと徐々に気づいていった感じです。

──

なるほど。そんなNovelmanから数えると、今年活動15周年なんですね。

谷澤

ほんまや。今から言うていこかな(笑)。大学卒業後は就職するんですけど、25歳で会社を辞めて音楽一本。そこからも10年ですね。

──

音楽で生きていくと一念発起したんですか?

谷澤

よく言えばそうなんですけど、全く食えてない。日々の95%くらいがバイトで、音楽活動と言えばアルバムを作りまくって、CDに焼いて500円で売ることくらいでした。

──

2017年のソロ初アルバム『無料の音楽』から2021年『ご冗談でしょう』までの約4年で、アルバム6作品、EP1作品。段ボールをジャケットにした超DIYなものでしたよね。


2020年作のアルバム『folknia』
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2020年作のEP『灯し火』
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2021年作のアルバム『ご冗談でしょう』
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谷澤

暇過ぎたんです。やることがないし、お金もない。ただ時間だけがあったから、ずっとタダでできる曲作りを続けていた時期でした。

──

でも2020年に発表した“灯し火”が『おやじキャンプ飯』の主題歌になって、ライブも増えたんじゃないでしょうか?

谷澤

おかげでライブのお誘いやお仕事は増えましたね。物販でCDも売れるようになったんですけど、その分また段ボールでジャケット作って、CD-Rを焼かないとダメじゃないですか。手間のわりに儲からないからイライラし始めて……。

──

10曲くらい入って500円なのが、安すぎるんですよ(笑)

谷澤

最初の『無料の音楽』が15曲で出しちゃったから、引くに引けなくなっちゃって……。1曲あたり33円(笑)。だから『手紙を書く』(2022年)からCDのプレスもケースも作って値段もちゃんとつけました。


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──

私もこうやって「ウッディ」と呼ばせていただいてますが、「谷澤ウッドストック」と名乗り始めたのはいつからですか?

谷澤

Novelmanの時は本名の「谷澤慶太」でやっていたんです。だからソロでライブを始める時ですね。京都の〈VOXhall〉からバンドに出演オファーが来たんですけど、メンバーの予定が合わず断ったら、ブッカーのおのまん(小野満)さんから「勉強がてらにソロで弾き語りしてみたら?」と言われて。OKしたら出演者の欄に「谷澤ウッドストック」って書かれてた。「これ俺?」って思ったけど、そのままにしちゃいました。そう言えばいつぞやのライブの打ち上げで、ウッドストックのドキュメンタリー映画を見たことをおのまんさんに話してたなと。

──

勝手につけられるのもおかしいし、受け入れるのもおかしいです(笑)

谷澤

その時の一回きりと思っていたんです。そしたら評判が良くて、2回目呼ばれて。そしたら京都の別の店からも「谷澤ウッドストック」でオファーが来た。次第に「ウッディ」って略されるようになって「やばい、一人歩きし始めた」と思ったんですが、もう遅かった。本名の「慶太」を奪われた『千と千尋の神隠し』状態です。

──

横のつながりで噂や評判が回りやすい京都っぽいエピソードですね。出身は大阪の守口市ですが、大学以降はずっと京都ですよね。活動のしやすさや愛着は感じていますか?

谷澤

もちろん京都は好きやし、いいお店やすごいと思うミュージシャンもたくさんいる。でも自分がいわゆる「京都のミュージシャン」と言われるのは、合ってない気もするんです。ホームと言えるような会場は未だにないし、京都の人たちから見たら京都っぽくないと思われているでしょう。でも他の地域に行くと京都っぽいと言われる。そういう居場所のなさはずっと感じています。でも特定のコミュニティに根差すより、流れるままにその時々で出会った人たちと楽しくやる方が好きなので、そんなに気にしてもいないですが。

──

年々京都だけでなく全国各地をライブするスタイルが確立されていますし、拠点なき感覚はひとしおなのかもしれません。また飲み屋やカフェで歌うことも多いですが、ライブハウスとは向き合い方は違いますか?

谷澤

違うんでしょうけどどっちの楽しさもあるから、そこも気にしてません。もちろん音響がしっかりしているライブハウスの方がお客さんの集中力も高くて、ちゃんと聴いてくれる。その分、居酒屋やマルシェに出る時は大道芸人とまではいかずとも、パフォーマーとしての筋肉がいる感覚はあります。

「いい曲」って、いつの間にか手元に残り続けている

──

ウッディさんの音楽は、強靭な歌の力に圧倒されるのですが、それが全面に発揮される箇所は少なく、佇まいがすごくささやかです。曲作りにおいてどんなことを意識していますか?

谷澤

未だにどこか照れがあるんでしょうね。完璧なものより、ちょっと欠落した部分がある方が好き。だからいわゆるAメロ・Bメロ・サビを繰り返してラストに転調みたいな曲が作れない。黄金フォーマットすぎる。

 

“灯し火”が『おやじキャンプ飯』の主題歌に使ってもらった時、めっちゃ言われましたもん。「あのドラマバージョンの完全版も早く聴きたいです」って。あの1分くらいがフルバージョンなのに(笑)

──

曲を作るペースは早い方だと思いますか?

谷澤

あんまり苦労しないタイプというか、めっちゃ労力かけた曲ほどボツになってしまうことが多くて。いらんことはせんとこうと意識しています。

──

労力をかけたのにボツになるのはなぜでしょう?

谷澤

欠落していた方が好きという話にも通じますが、余白の少ない曲がボツになりやすいです。言葉の並べ方や韻の踏み方、ストーリー性、そこに伴うコード進行と、ガチガチに考え抜いたいわゆる「いい曲」って完成した時はめっちゃ嬉しいんです。でもライブで歌う内に飽きてきて、いつの間にかやらなくなってる。その点、“灯し火”や“日の出”って完成してから、ほとんどのライブで歌い続けられてるんです。

 

だから自分にとっての「いい曲」って、作っている時の記憶もないのに、手元に残っている曲なのかも。意図も作為も忘れているから、歌うたびに「こういうことを歌っているのか」という気づきがある。

──

アルバムのテイクと今のライブでは全然アレンジが違っていることも多いじゃないですか。それも余白を残しているから次第に変化していくんですね。

谷澤

そうそう。“ファイトクラブ”なんか、作った当初は政治に対してイライラした気持ちを、しっとりアルペジオで歌ってたんです。『ご冗談でしょう』(2021年)に入っているバージョンではコードストロークに変わって、今ではもっと力強くBPMもめっちゃ早い。


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──

一方で歌詞についてはどういうことを歌ってたいと思っていますか?

谷澤

あんまり何かのメッセージを伝えたいわけではなくて、風景とか何かの佇まいを歌にしたい。あとは先に何かの言葉があることが多いですね。“700の風と沿岸列車”やったら、「走っていく 走っていく」という言葉が浮かんで、そこから肉付けしていく。

──

どういう歌の佇まいにグッときます?

谷澤

うーん……飄々としている雰囲気が好きなんです。例えばドラマつながりで俳優の近藤芳正さんと一緒にライブさせていただいたことがあって、あの所作や立ち振る舞いのさり気ない凄みは、言葉にならないものがありました。あとは落語が好きなんですが、ライブを観に来ていただいたことのある桂かい枝師匠のさらっとした身のこなしと語り口。そのあたりは、影響を受けているかもしれないです。

──

そこで出てくるのが音楽ではなく俳優さんと落語家さんなのが面白いですね。

谷澤

あ、そうか(笑)。音楽で言えばベン・E・キングの“Stand By Me”みたいな曲が最強ですね。簡単なコード進行、簡単な歌詞、誰でも歌えるメロディ。それぞれのパーツだけで言えば誰でも思いつきそうなくらい単純なのに、でもとても上品でかっこいい。もう人間力というか、人から放たれているものの魅力がすごいんです。あんな曲が作れたらいいな。

初のバンド・レコーディングで臨んだ“宵々”

──

やはり歌でも「人から醸すもの」に惹かれるんですね。これまでの音源作品は弾き語りがベースでしたが、最新曲“宵々”で初のバンドサウンドに取り組んだのは、どういう意図がありましたか?

谷澤

何かきっかけや明確な意図があったわけではなく、これも自然な流れです。ウッドベースの加藤喬彦さんと、マンドリンのジン(Jin Nakaoka)はこれまでもずっと一緒にやって来たし、斉藤慶司さんをドラムに迎えてライブをやり出したのがここ2年ほど。ようやく慣れてきたので、次のレコーディングはこのメンバーで一緒にやろうとなったくらいのことです。


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──

ウッディさんの歌にドラムが入っている演奏を聴くのが初めてだったのでとても新鮮でした。

谷澤

ずっと鉛筆だけで絵を描いていたけど、その内赤色をもらって、楽しくなって青色を買ってきて、最近ようやく紫を使い始めるみたいな。ちょっとずつ自分の使える色が増えてきた感覚。

──

紫を手に取るまで15年……。

谷澤

自分でも遅すぎると思います(笑)。でも5年くらい前のワンマンライブでキーボードとギター、マンドリン、ベースが入った5人編成でやったら、手に負えずパニックになって。だからようやく4人まで体が慣れてきたところ。

──

“宵々”もバンドサウンドでやることを想定して出来た曲ですか?

谷澤

そうです。歌詞は「抱き合って 許し合って そんな夜を笑っていける」という歌詞をとっかかりにした大喜利。イメージとしては宴や民族音楽っぽく、コードはD6一つだけ。楽器が弾けない人も、一緒になってセッションできるような仕上がりにしたかった。もちろん参加メンバーはうまい人ばかりなんですけど、「今初めて渡された、見たことない楽器と思って演奏してください」って言ったんですよ。理論上はこう弾くけど、あえて違うところを押さえてみてほしい。リズムだけ合わせて全員が一斉にバーンと音が出た時に気持ちよければOKとしました。

──

かなりしっかりとゴールを見通したディレクションをされていますね。

谷澤

いや、バンドってどうやればいいかちゃんとわかってないから「好きなようにやってください」としか言えないだけです(笑)

──

この曲を皮切りにバンド・サウンドに取り組んでいこうというモードですか?

谷澤

いや、今年は3作目のフルアルバムに向けて動いてますが、相変わらず弾き語りの曲も多いですね。

──

全く持って成り行きだと。

谷澤

計画性はない!(笑)。常にライブで出会って「この人ええやん」と思ったら、「今度一緒にやってみません?」って声を掛けたり掛けられたりを繰り返しながら、行き当たりばったりでやっていくんやと思います。

もう夢、叶ってるんです

──

いらんことはせず、余白を残しつつ、行き当たりばったり。まさに「流れ者」なスタンスですが、ここまで歌い続けてこれたのはなぜだと思います?

谷澤

未だに自分で歌詞を書いて、メロディをつけて、お客さんを呼んで、歌うって頭おかしいことやってるなと思うことはある。でも何故かこれだけはずっと続けている。多分、人生の中で、音楽が一番うまいことできないからかもしれないです。

──

一番長く続けていることなのに?

谷澤

元々、とても飽き性なんです。小学生の頃の夢は画家でずっと絵を描いていたんですけど、ちょっと何か展覧会に入選できたら満足してやめてしまった。中学は野球部やったんですけど4番までなれてしまった。大学ではバンドをやる前にお笑いサークルで漫才をやっていたんです。そこでも『大学生M-1グランプリ』でエリア代表まで一応行けたから、次はバンドを始めた。そこから音楽だけはずっとうまいこといかん。「まだなにも起こらないなぁ、クソー!」という感じで続けてきたら、いつの間にかこうなってた。

──

そのうまくいかないフラストレーションって、今も原動力になっていますか?

谷澤

悔しい気持ちがないこともない。でもこれは一生続けるんやろうなって、いい遊びを発見できた気持ちの方が今はでかいです。

──

ウッディさんが追い求めている理想ってあります?

谷澤

……それを言うたら、今もう幸せなんですよね。

──

おぉ、それは素敵。

谷澤

コロナ禍の時にライブができなくなって、バイトも飲食系やったから貯金もなくなって。このまま死ぬんかなぁとか思いながら、UberEATSの配達員の登録方法とか調べてたんです。そんな中で緊急事態宣言が出ている隙間を縫ってあるライブに呼ばれて、20分くらいの短い出番でしたが歌わせてもらった。お客さんもそんなに入れられへんし、めっちゃギャラがもらえたとかでもないけど、その日歌えたことがただただ幸せで。帰りの電車も一人でずっとニヤニヤしちゃって。

──

人前で歌を歌えることの喜びですかね?

谷澤

お客さんに向けて歌えることも含めて、ライブという行為の愛おしさかな……。曲を作って、歌って、反省したり手ごたえを感じながら家に帰る。それさえ出来ていたら自分は全部OK。もう夢、叶ってるんです。

──

それ以上は求めない?

谷澤

そりゃあえて展望を言えば『紅白歌合戦』に出るとか、大きなホールで歌うとかはあるけど、それも次の日いつもの立ち飲み屋に行って、常連のおっちゃんから「テレビ出てたやん」って言われたらおもろいやろなってくらいのこと。

──

ウッディさんって肩書きを何と呼ばれるのが一番しっくりきます?

谷澤

「シンガーソングライター」ってなんかむず痒いですね。でも「歌うたい」もちょっと恥ずかしい。「歌手」はなんかハンドマイクのイメージがあるし……「フォークシンガー」というほどフォークから影響も受けてない。「近所におるギターが弾ける兄ちゃん」くらいでずっといたいですね。

──

音楽性としてのフォークからの影響はなくとも、生き方やマインドは先人のフォークシンガーたちからのバトンを無意識的に受け取っている人だなと、今日お話を聴いて感じました。

谷澤

知らず知らずのうちにですね。それで言ったら自分はやっぱり芸人さんに対する憧れが強いです。手ぶらで仕事に行って、身一つで舞台に上がって、さらって人を楽しませて、その日もらったお金で酒を飲むみたいな。

──

最近のお笑い芸人というより、寄席が中心の昭和の芸人さんの生き方ですね。

谷澤

そうそう。宵越しの金は持たず、粋で軽い感じ。自分もさらさらと生きていたいんです。

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