
美容室と雑貨が合わさり人が集う、 甲府のゼネラルスポット『Yauch』
山梨県甲府市に位置する〈Hair Salon & General Store Yauch〉。2024年10月にオープンしたこのお店を営むのは、美容師である村松夏威平(かいへい)さんと、アパレルと雑貨店員である芽未(めい)さんのご夫婦。それぞれの職業・役割を集約することで「必要な時に行くお店」というより「たまにふらっと立ち寄る二人の家」という方がしっくりくる。もはやちょっとしたコミュニティスポットだ。でも本人たちはただ「二人でお店がやりたかっただけ」といった様子。この居心地の良さの源泉をもっと知りたくなった。
夏威平さんは甲府市の隣に位置する甲斐市の美容室、パートナーである芽未さんは甲府の雑貨店でそれぞれ22年ほど勤務。そこから互いに独立し、2024年10月にこのお店をオープンした。開店の告知をするInstagramの投稿では次のように宣言している。「自分自身にこだわりを持ち、それぞれの美しさを大切に出来る人、それを目指す人の手助けをする店です」
そこには商品を売り、髪を整えるに留まらない、この場所に集った人と共に生活を豊かにしていく志がうかがえる。またその通り、1周年イベントに集った人たちの盛りあがりったら。同じタイミングで取材した諸国調味料探訪のカミヒラヨウコさんにして「この街随一の面倒見の良さ」と評する二人の、人との向き合い方やお店作りの姿勢に興味が沸いたのだ。
写真:umihayato
Yauch
山梨県甲府市中央1丁目18−5
営業時間:
Salon 平日11:00~19:00 / 土日祝10:00~19:00(受付)
Shop 12:00~19:00
定休日:毎週月曜日&第1・第3火曜日
Instagram:@yauch_generalstore
桜町通りにオープンした緑のお店
結婚する前からずっと一緒に店をやりたいねとは話していました。
それで結婚した2022年くらいから具体的に考え始めて、店舗探しや工務店探しを始めたものの、条件が合うところがなかなか見つからず……。周りの助けもあって、2024年10月にようやくオープン。
夏威平の美容室はもう予約も受け付けていたから、とにかく予定通りオープンさせよって。私の方は時間が全然足りなくて商品がスカスカだったけど、たくさんのお祝いのお花のおかげで空間が埋まって華やかだった(笑)
内装に時間がかかってたんですけど、ずっと僕が担当してきたお客さんがオープンを待っていてくれていたので店が、出来ていないからって1ヶ月遅らせるのは避けたかった……。
この場所を選んだ決め手は?
場所選びは苦労しました。最初は山が見えて景色の良い場所で畑に囲まれながら仕事したいねと話していたんですが、条件が合うところはなかなかなく……。
甲府の商工会議所が紹介している物件相談に行って、この周辺の内見をさせてもらっていたんです。それで桜町通りを歩いていると、この建物の雰囲気が気になって、何の気なしにオーナーさんに問い合わせてもらったら、1週間後に塗装が入るので、その後からだったら内見可能ですって。
少し時代を感じさせる鉄筋コンクリート造の建物が理想的でした。周りはいわゆる日本の商店街の雰囲気が残っていて、老舗も多くて居心地がいい。またここに住んでもらうことが条件だと言われたので、「もうここじゃん!」ってなった。
ここは元々は呉服店で、2階に美容室が入っていたそうです。だから最初は上でやることをおすすめされたんですが、やっぱり路面店にしたかった。あと内装も手前をストア、奥を美容室にしたら、表向きは普通のお店になっちゃうじゃないですか。なので導線としてはやりづらいんですけど二つを横並びにして、自分たち二人がそれぞれやっていることを表からも見える空間にしたくて。施工も自由にしていいってことだったので、思い通りに作ることができました。
芽未さんが立つカウンターの上にある穴はなんですか?
奥がシャンプー台になっていて、自分がそっちにいても店内が見えるように空けました。そしたら店に一人でいる時に誰か来ても対応できるじゃないですか。お客さんからは顔はめパネルみたいって言われます(笑)
美容師って予約しないと会えないのが寂しい
〈Yauch〉が位置するのはJR甲府駅から15分ほど南に歩いた先にある桜町通り。同じ道沿いにはジャズライブが行われる〈コットンクラブ甲府〉や、元は明治・大正時代の芝居小屋が復活し今ではこの街を代表するライブハウス〈桜座〉などの音楽スポットもある。またこの一帯は〈甲府中央商店街〉として東西南北300mほどを格子状に様々な店が立ち並び、どことなく高度経済成長の香りを残した独自の雰囲気を醸している。一つ筋を入ると裏春日と呼ばれる歓楽街で、昼はとても静かだが、夜は賑わいを見せるそう。
周りは老舗が多いこともあって、午前中から営業しており明るい店内の〈Yauch〉はひと際ポップな佇まいで、目に飛び込んでくる。「とりあえずYauch寄っとこうかな」と思わず引き寄せられてしまうのだ。
髪を切りながらお客さんと話していると、相談を受けるこことがたまにあって、そしたら「あの人に聞いててみてもいいんじゃない?」みたいに間を取り持つことがよくある。そこから色んな方向に物事が転がっていくのがおもしろい。
私は正直、初めてうちに来たお客さんには、まずこの街を楽しんでいってほしい気持ちが強い。特に県外から来てくれる人には、どこに行く予定か聞いて「せっかくだったらここも行ってみてほしい!」って伝えたり。観光案内所みたいになってます(笑)。嬉しいことに甲府にくるたびに、寄ってくれる人も増えてきた。
なぜお二人はお客さんに対するプラスアルファなコミュニケーションをしたくなってしまうのでしょうね?
せっかく店を作ったから、来てくれる人と一緒に楽しみたいってだけで、深い考えがあるわけではないです。
考えがあるとしたら、美容室って予約しないと美容師さんに会えないじゃないですか。髪を切るタイミングしか夏威平と喋る機会がないのはなんか寂しいなって思う。あとヘアオイルだけ買いに行きたい時も、それだけで美容室に入るのもちょっとハードルがある。でもストアがあったら気軽に来れるし、お喋りできるなって。
確かに。昨日もお客さんと芽未が、夜ごはんを食べに行く店の話をしているのを自分はお客さんを対応しながら聴いていて、「今日はその店休みだよ~こっち行った方がいい!」って会話に割って入ったり。
美容室とストアそれぞれにお客さんがいるけど、どっちもあるからちょっとしたコミュニティになっている感じがする。
幼稚園児からお年寄りまで、ただ自分たちに会いにお店に寄ってくれるのも嬉しいよね。山の方で店を探していたけど、いざここで店をやり始めたら「やっぱりストリートだな!」って思いましたね(笑)
店内でのイベント開催やマーケットに出店しているのも、お二人だけではなく色んな人を巻き込むことに喜びを見出していることが伺えます。
そうですね。でもそれも好きな飲食店や作家さんを呼んで、自分が楽しむイベントをしたいってだけです。自己満足と言ってしまえばそれまでなんですけど、それで来てくれる人が楽しんでくれることが理想。
なーんにもなくても来てほしいから
棚には『ストレンジャー・シングス』に登場するシボレーブレイザー K5のプラモデルや、Beastie Boys『Aglio E Olio』(1995年)のアナログ盤など、二人の愛好するカルチャーが並べられている。特にビースティがフェイバリット・アーティストということで、この店名はメンバーであるMCAことAdam Yauchから取られたに違いないだろう。
一方で芽未さんが担うゼネラルストアのスペースにも所狭しと商品が並んでいる。古着やオリジナルTシャツ、アパレル雑貨を始め、調味料やお菓子などの食品、グラスやワインバッグなどとても一言には括れない。「シュッとしたおしゃれな店はうちらっぽくない」と語るが、扱う商品についてはどのように考えているのだろうか。
韮崎にある〈PANG HOUSE〉っていう家具屋さんも自分たちが通っているお店で、オープン一周年のとき、ワインのボトルストッパーを作って欲しいと頼んだら快く承諾してくれて。そこからことあるごとに色々作ってもらっています。
売りたい商品の方向性とかは決めないようにしていて、そのときのノリで(笑)。現時点では日常に寄り添うちょっとうれしいものというくらいです。生活していて出会った人や物との縁を大切にしています。
商品だけじゃなくて、ベンチやカウンターは〈サイクル〉っていう甲府の古材と古道具のお店の方に作ってもらったり。積み木みたいなブックエンドやキャンドルホルダーは〈PANG HOUSE〉で。お客さんに作家さんや、ものづくりしてる方も多いので、日々話す中で欲しかったものを作ってもらう流れになるのも、この街で店をやっているからこそって気がします。
取材に赴いたのは店休日だったが、お店を開けていると引き寄せられるように人が訪れてくる。突然の来訪に対しても二人は自然と話の輪に巻き込んだり、そしてそのお客さんは明日往訪予定の〈文化沼〉のスタッフだったり……早くも甲府コミュニティの結びつきの強さを垣間見た心地になった。
オープンして2年目に突入し、まだまだ手探り中という二人に、今後どんな店にしていきたいか、最後に聞いた。
将来的にはもっと山の方に店を出したいって選択肢はまだあるんですよね……やっぱり八ヶ岳の方に行った時のリフレッシュされた健やかな心地は代えがたくて。でもまだまだこの場所で続けたいから、山をこっちに動かしてほしい(笑)
やりたいことが多すぎるよね……。店舗も広くしたいし、海外に古着や雑貨の仕入れも行きたい。買い付けという名目の旅行。
この店を始めて、出会う人や頻度がとんでもなく増えたのが嬉しくて。この先も色んな人に出会いながら、ゆとりを持ちながら、長く営業していきたいです。
やりがいも苦労も笑いながら語ってくれる二人。いつもの取材だったら「立ち話もなんなので……」と仕切り直してインタビューに臨むはずが、店内を眺めながら立ち話している内にいつの間にか完結してしまっていて、二人はもちろん筆者自身もびっくり。美容室と雑貨店の境も、店舗と家の境も、取材と雑談の境だって無くしてしまう、“村松夫婦がいるところ”でしかない〈Yauch〉という場所の魔力を存分に味わった時間だった。
取材をオファーした時「意味のある話が出来る自信はないですが……」と仰っていたが、意味や意義、役割を超えた人との付き合い方や心地よい空気感、互いにおせっかいをし合う周辺との関係性が、この場所を成り立たせている。自然と、そして心から「また来ます」と二人に告げて、店を後にした。
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- 副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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