この先鋭的なバンドサウンドは、2020年代の京都音楽シーンを代表する
まるでYussef DayesとThundercatがOGRE YOU ASSHOLEに加入して、《Brainfeeder》からリリースしたような作品だ。2018年に京都で結成されたバンド、YUNOWA(ユノワ)。二条〈GROWLY〉を中心に京都・大阪のライブハウスでじっくりキャリアを重ねてきたが、活動6年目にしてついに1stアルバム『Phantom』が完成した。
3ピースではあるが、各パートの役割が他のバンドと大きく違う。ドラムレスのポストロックバンドNew Biboujinでも活動する、水野翔太の内省的な叙情を放つギターボーカルがバンドの軸であることに違いはない。だが福森晃平によるリードベースと島村一輝によるリードドラムが最前線に立っている、超攻撃型のサウンドなのだ。もう一つ言い換えると、じゃじゃ馬のように暴れるリズムとビートの上を、歌が表情一つ替えずにグラインドしながら乗りこなしていくというメソッド。まるでロデオのようである。
その傍若無人っぷりが最も発揮されているのが表題曲“Phantom”。ビットクラッシュさせた粗くうねるベース、一定のリズムを保つことを放棄したドラム、そして朗読するようなボーカルによって儚く歌われる「オルタナティブなんてものは、ああ幻のことさ、ああ幻のことさ……」。ラストに入る不気味な女性の笑い声も含めて、アンサンブルの定型を無視するどころか、嘲笑いながら木っ端みじんに粉砕していくようにして、新たなバンドのダイナミズムを獲得している。
一方でただ激情的なインプロヴィゼーションが繰り広げられているわけではない。構築的な部分も随所にうかがえるバランス感覚も本作の魅力である。随一にキャッチーな“ヒカラビ”はTalking Headsがダブステップとミニマルファンクに感化されたような空想のダンサブル・チューンだし、“あなたのそばで”は水野の美しいファルセットが際立ちアンビエント・フォークへの意識を感じる仕上がり。ラストの“グッドバイ”は8分45秒におよび3部構成に渡って情景が移ろい、徐々に沸き上がるカタルシスがたまらない。鋭い嗅覚でリズムとサウンドの潮流を捉えながらも、そのリファレンスには着地させないという意地がひしひしと感じられる。
2020年代も中盤に差し掛かるが、京都のシーンにおけるこのディケイドを代表するような作品がようやく表れたと断言しておこう。このままマイペースに活動をさせておくにはあまりにもったいない。日本中、いや世界をも巻き込めるはずだ。
Phantom
アーティスト:YUNOWA
仕様:CD / デジタル
発売:2024年2月14日
価格:¥2,500(税込)
収録曲
1.テライト
2.憧れ
3.ヒカラビ
4.足踏み
5.ファントム
6.あなたのそばで
7.グッドバイ
YUNOWA
YUNOWA(ユノワ)は2018年結成、京都を拠点としたスリーピースロックバンド。ジャズやR&B、ダブ等様々なテイストを含みつつも、抑制と隙間を追及したアンサンブルを特徴としている。
Instagram:@ynwjp
X(旧Twitter):@yunowa3
Lit.Link:https://lit.link/YUNOWA
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WRITER
- 峯 大貴
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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